一対の光
□第6話 梁唯奮闘記
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01 夕方 梁唯 Side翔
翔「……僕の想い、伝わったかな……?」
エメル「あの様子だと…絶対に伝わってるにゃ!」
……だといいな……。
微かに赤みを帯びてきた空の下、体の痛みに耐えながら互いを支えあう……。
重い足を何とか前にだし、倒れないように注意しながら一歩、また一歩と慎重に踏み出す……。
……教えてもらった{cure}がなかったら、まだ動けなかったかもしれない…。
ルィソウ、本当に助かったよ…。
ルビリ「エメル! あんた、本当に大丈夫なの!?」
エメル「…うん。 翔のおかげで…なんとかね…。」
グリス「そうは見えないが……。」
居ても立ってもいられないといった様子で被害状況をまとめていたルビリさんは、仕事がひと段落すると血相を変えて駆け寄ってきた。
フェルノ「あまり無理はするなよ…。」
翔「はい……。 …フェルノさんは…大丈夫なんですか?」
自分たちのほうで精いっぱいだったから、どうだったんだろう…?
僕は白い翼をたたんで一息ついている[梁唯]の自衛隊長を見、彼に一通り目を通しながら質問した。
…杞憂だったかな?
あんなにいたのに傷一つない…。
……凄すぎるよ……。
…それに比べて僕は傷だらけ…。
もっと頑張らないと…。
フェルノ「私の<ペガサス>という種族は他の種よりも体が丈夫でな…。」
エメル「でも、昔よく足を骨折してましたよね?」
フェルノ「…! それだけは言うな。」
ルビリ「…でもフェルノさん? この事は[梁唯]の人はみんな知ってるわよ?」
……どんなに強くても、他の人と変わりないんだね。
エメルに暴露されたフェルノさんは顔が急に夕焼け色になり、まるで滝のように汗が噴き出した。
…何か安心するよ……。
フェルノ「…部下には言うなよ…。」
ルビリ「はいはい。」
年下のはずなのに、ルビリさんは子供をあやす様に彼をなだめた。
……こんなひょうきんな光景に思わず吹き出しそうになったのはここだけの話し…。
フェルノさんには内緒でお願いしますね。
…と、いう訳で、残り少なくなった今日の巡回を兼ねて街の役場を目指した。
────
夜 エメル宅 Side翔
凛「翔! エメル! あんた達、ボロボロじゃない!!」
翔「<レナード種>の群れに襲われてね…。」
フェルノさんに促されて早めに宿泊先……、エメルの実家に帰らせてもらったよ…。
…とはいっても、僕は初めてだけど……。
エメルの家は一言でいうと、ログハウス…かな?
[涼沙]とは違って木で造られているんだよ。
どんな技術を使ってるのかは分からないけど、年期の入った壁や床、天井は新築同然に傷一つない…。
森の中にいるような香りが僕達を包み込み、着かれた体を精神的に癒してくれる……。
…結構居心地がいいよ。
石造りにはないね、こういうのは……。
………で、エメルから榎国と[梁唯]の事を聞いているうちに日が暮れて、今に至るって感じかな?
凛はエメルの家に戻り、靴を脱いであがるなり声を荒げた。
霜「そっちは大変だったみたいだな。 それに翔も元に戻ったみたいだな。」
エメル「そうにゃ。」
ルビリ「凛ちゃん達のほうは何ともなかったそうよ。」
そっか。
そっちは何もなかったんだね?
凛達の後から入ってきたルビリさんは「ああー疲れた。」って言いながら尻尾で玄関の引き戸を閉め、倒れ込むように崩れ落ちた。
エメル「秘書も大変だってよくわかったよ。」
ルビリ「いいえ、秘書はまだ楽なほう。 琶国の武官の兄さんのほうがもっと大変のはずよ。」
翔「…そういえば、エメルのお兄さんって琶国で働いてたんだっけ?」
凛「前にそんな事言ってたわね。 ……会った事ないけど……。」
確かに、僕もないよ。
[涼沙]で働いてるらしいんだけど、まだ出会えてないよ。
僕が知る限りでは武官に<獣人種>はいないからね。
莉奈「あら? 知らないのね? 翔君達も会った事あるはずよ?」
翔・凛「えっ!? 僕達が、ですか?」「いいえ、エメルとルビリさん以外の<シャトレ>は知らないわ。」
凛、僕もそうだよ!
<獣人種>の武官に心当たりがない僕達の声が夜のログハウスに反響した。
霜「確か任務の管理をしてたよな?」
エメル「そのはずにゃ!」
うーん……、やっぱり知らないよ……。
腕を組んで記憶を辿っている僕とは対照的に、親友は自信満々に声をあげた。
エメル「兄さんはいつもし……」
???「クォーーン!!」
エメル「っぽを…んにゃ?」
エメルが話している最中、割と近い屋外から<レナード種>特有の遠吠えが響いた。
<レナード種>って事は、きっと彼だね。
僕は確信と共に腰を上げた。
凛「!? <レナード種>!? 近……」
翔「凛、構えなくていいよ。」
凛「く…はい?!」
きっとこの鳴き声は変異種の<ユレナード>…フォクルのだからね。
…僕は<レナード種>でもその<獣人種>でもなから違いは分からないけど……。
事情を知らない召喚士の2人は慌てて立ち上がり、呼び出す呪文を唱えようとした。
翔「この<レナード種>は絶対に襲ってこないから! …うん、やっぱり<ユレナード>だね。」
ユレナード「クォン!」
僕は凛にこう呟きながら玄関の引き戸を開けた。
するとそこには1本の尻尾をもつ薄黄色の狐…、<ユレナード>が前脚を揃えて座っていた。
その彼は「そうだ。」とでも言いたそうに声をあげて頷いた。
…言葉が聞こえないって事は、{parler}の効果切れてるって事だね。
翔「{parler}。」
ユレナード「!? 《」これが言ってた魔法!?》
彼の言葉が分からない僕は呪文を唱え、それぞれの足元に光の魔法陣を出現させた。
…これがないとね…。
翔「そうだよ。 …どう?決まった?」
フォクル《…ああ。 身寄りが無くなった今、あんたについていくことにした。》
彼が言うには<レナード種>は群れでしか行動しない種族みたいだからね。
追い出された今はきっと声をかけた僕しかあてがなかったのかもしれないね。
フォクル《…だから、俺の事をよろしくな。》
翔「うん、こちらこそ。」
そう言い、彼は座ったまま右前脚をさし出した。
僕もその彼に応じ、しゃがんでから右手でその前脚を掴み、握手を交わした。
………僕は召喚士じゃないけど、いいよね?
琶の国は昔から獣と共存している国……。
言葉が通じなくても彼らと生活を共にしてるから、問題ないね!
…こうして、僕に新たな仲間が加わった。