一対の光
□第2話 翔の秘密
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02 梁沙渓谷 Side翔
凛「……で、何故か教えてくれるわよね?」
翔「………うん……。」
[涼沙]に続く街道にさしかかった時、凛は「待ってました!」とでも言うかのように僕に真意を問いただし始めた。
僕はそれに、躊躇しながらもゆっくりと頷いた。
……依頼主と別れてから僕達は足早に[西沙]を後にしたんだよ。
…何しろ凛が「買い物なんていつでもできるじゃない! だから早く言いなさいよ!」って言って僕達の言う事を聞かないんだよ……。
…こうなったら凛はテコでも<ドラゴン>でも動かない…。
最初のうちは何とかしようと思ったけど、今ではもうお手上げ…。
フェニックスでさえ呆れてる有様……。
そして、僕は意を決して1年間もの間閉ざしてきた重い口を開いた。
翔「……“龍牙の呪縛”って知ってる?」
凛・翔「“リュウガノジュバク”……? …聞いたことないわ。」「“龍牙の呪縛”だと!?」
彼女は未知の言葉に首を傾げ、彼はその彼女とは対照的に驚きで声を荒げた。
……雄志さん、知ってたんだね………?
翔「うん……。 …一言でいうと、“呪い”…だよ…。」
これのせいで僕は右腕を使えないんだよ…。
凛「!? 呪い!?」
翔「そう…。 …闇属性に分類されていて、一度かかったら二度と解けないんだよ……。 …僕はまだ右腕だけで済んでいるけど、症状が進むと魔力を完全に使えなくなるんだ…。 …僕もそれが進行している…。 …ほら、2か月前の幃との戦いでもそうだったでしょ?」
凛「…………。」
翔「あの時僕は途中で魔力切れを起こして命かながら離脱したでしょ? あれも“呪縛”の影響だよ…。」
命かながら……、という以前に、その時僕は気を失ってて後で聞いただけなんだけど…。
僕が戦えなくなったから、凛と雄志さんも強制的に離脱することになったらしい…。
彼女は僕の予想外の言葉に言葉を失った。
凛「……なら、その包帯は……?」
翔「それは……、僕に“龍牙の呪縛”がかけられていることを隠すため……。」
雄志「<ドラゴン>に噛まれるとかかると聞いたことがあるが……。」
翔「…まだ子供の<ドラゴン>だったけど……3歳の時に噛まれて、それから3年後ぐらいにこうなったんです……。」
そう言いながら、僕にとっての“パンドラの箱”である右腕の包帯を解き始めた。
…コレのせいでひどい目に遭ってきたから………。
凛「…!! …これって…、もしかして……。」
翔「…見た通りだよ………。」
包帯が解かれたその下には……、手の甲のほぼ全体に及ぶ痛々しい痣と、腕には1cmぐらいの大きさで蒼く変色した瘡蓋(かさぶた)のようなものが4〜5コ……。
凛「……“鱗”……?」
彼女は確かめるように訊いた。
翔「…うん……。 …きっと僕に噛みついた<ドラゴン>が成長した後の物だろうね……。
…コレのせいで周りの人……、親戚にでさえ虐げられてきた……。 …父さんも別の個体の“呪縛”で無くし、母さんも病気で失った……。 …これ以来友達も離れていったから、僕は天涯孤独の身になったんだよ……。 周りの人の白い目に耐え切れずに何回街を移ったことか……。 …今ではもう数えきれないよ……。」
……もしこれが僕に与えられた“運命”なら、…あまりにも残酷すぎるよ………。
凛・雄志「「…………。」」
自分の全てを話し終えたこの場には、気まずい空気だけが午後の風と共に漂っているだけだった。