一対の光
□第4話 竜として
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02 朝 涼沙渓谷 Side翔
翔〈……? ……本当に、<水竜>の姿なんだ……。〉
僕はふと体全体に心地いい冷たさを感じ、それで目を覚ました。
目を開けると………、何か綺麗なんだけど………。
薄い水色が辺り一面に広がる空間に、明け方の薄明るい光が差し込んでいる……。
僕はこの幻想的な空間にうっとりとした。
……それにしても、ここはどこなんだろう……。
…“精神世界”じゃなさそうだし……。
ルィソウ───翔、目が覚めたようね?───
翔〈!? この声は、ルィソウ!?〉
!?
1mはある長い首を傾げる僕の頭の中に、“精神世界”にいるはずのルィソウの声が響いた。
突然の彼女の声で眠気がどこかに飛んでいってしまい、ぼんやりとした意識が急に覚醒した。
ルィソウ───そうよ! あなたの中から直接話しかけているのよ!───
そんなこともできるんだね?
───ええ。 ……でもウチの声は翔にしか聞こえないのよ。───
ルィソウ、当たり前でしょ?
“精神世界”は僕の中にある……。
だから僕にしか聞こえないのは当然だよ。
ルィソウ───……そうそう! 場所について言っておくと、今翔がいるのは凛の家の庭の池の中。 だから周りが蒼いのよ。───
……どうりで。
…だから冷たいんだね?
…そういえば、<水竜>って水の中でも息できるんだね?
───当たり前じゃない! <アクアドラゴン>は元々川の中を住処にしている種族……。 じゃないと生活できないじゃない! …あっ!! 話し込む時間なんて無かったのをすっかり忘れてたわ!!───
翔<えっ!?>
彼女は僕のイメージの中だけで声を荒げた。
……それ、重要じゃない?
ルィソウ───明るくなる前に池から出ないと後々面倒だわ!───
……あっ!そっか!
街のド真ん中に突然<ドラゴン>が出たら騒ぎになるだけでは済まないもんね!
……できれば想像したくないけど………。
翔〈でも、どうやって飛べばいいの? 泳ぐのにも足は小さすぎるし……。〉
だって、体が3mぐらいあるのに前脚も後脚も70cmぐらいしかないんだよ?
前は4本だけど普段と変わらなくて、後ろ脚も鳥みたいな感じで4本しかないし……。
ルィソウ───簡単よ! まず、水の対流に身を委ねるの。 それから行きたい方向に首を伸ばす……。 そうすれば移動できるわ!───
えっ!?
それだけ!?
ルィソウ───空中でも同じよ!───
翔〈それだけでいいの!?〉
ルィソウ───ええ! 簡単でしょ?───
……うん。
確かにね…。
僕はてっきり何かの魔法で飛んでるのかと思ってたから。
……だって、<水竜>には翼がないんだよ?
僕は何となく彼女の言葉を理解した。
……兎に角、やってみないと……。
僕は鱗に覆われた全身に意識を集中させ、同時に力を抜いていった。
…………。
ルィソウ───いい感じよ!!───
………これなら、いけるかも……。
蒼鱗を伝って微かな水の流れが感じられ始めた。
そして僕は彼女の言う通りに水面に向けて首を伸ばした。
………!?
翔〈!? 動いた!!〉
ルィソウ───出来たわね!───
翔〈うん!〉
凄い!!
こんなに楽に動けるんだ!!
僕は初めて魔法を使った時のような感動に包まれた。
それと同時に、元の姿では鬱陶しく感じていた水の重みが今では命の源のように感じた。
ルィソウ───さあ、飛び立つわよ!!───
翔〈うん!! いくよ!!〉
水と空気の境界線が刻一刻と迫る………。
3m……
2m………
1m……………
ザバーン!
翔〈!! 凄い!! 僕、飛んでるよ!!!〉
豪快な水しぶきをあげながら、僕は勢いよく水面から飛び出した。
さっきまで感じていた水が交代し、今度は爽やかな風が僕の蒼鱗を撫で始めた。
翔〈ルィソウ!! 風を切って飛ぶってこんなに気持ちいいんだね!!〉
僕はありのままに感じたことを声に出さずにはいられなかった。
その咆哮は琶の首都に新たな一日の到来を告げることとなった。
ルィソウ───でしょ!?───
もう感激だよ!!
まさか人の僕が空を飛べるなんて思わなかったしね!!
“龍の呪縛”にも、良いことがあったんだね!?
光属性も使えるようになったしね!
僕は今まで生きてきた中で一番の高揚感に包まれた。
その間にも、僕は7mほど高度を上げていた。
ルィソウ───さあ、翔。 今日も任務があるみたいだから今のうちに体を慣らしましょ!───
ルィソウ? 言われなくてもそのつもりだよ!
今日一日中この姿でいないといけないでしょ?
翔〈もちろん!!〉
早朝の首都に1つの雄叫びが反響した。