一対の光

□第5話 様々な出会い
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02 榎の国 梁唯 Side 翔

《……お待たせ!》

僕はそれぞれの武器のみを持つ5つの影を空の上から見つけ、その彼らの元に舞い降りた。

………凛と霜、莉奈さんは召喚士だから持ってないけど………。

さすがにこの5人はもう慣れた様子で、会釈と共に僕の唸り声に答えてくれた。

……[梁唯]の人達は大変な事になってるけど……。
理由は言わなくても分かるよね?
………そう。闇の属性を持ってる事で知られている〈ドラゴン〉は、属性的にも補食関係でも生態系の頂点に君臨する魔物……。
もちろん、〈獣人種〉を含めた僕達、人にとっても天敵である……。


…………それにしても、噂では聞いていたけど、やっぱりこの町には〈獣人種〉が多いね…。

この場にいるだけで20人以上……。
〈ラピン〉の耳を持ってる人もいれば額に角を持っている人もいる…………。
鳥の脚を持っている人もいれば、足が蹄になってる人もいる……。

……一度にこんなにたくさん会うのは初めてだよ!
今まではエメルを入れてもせいぜい5人程度……。
…流石、人口の4割が〈獣人種〉の榎国だね。

この町なら右腕の包帯をほどいても大丈夫そうだよ。

凛「エメル、この町の代表との待ち合わせはここでいいのよね?」
エメル「うん! …でも役場の前じゃなくても翔がいるからどこでも良かったかもしれないにゃ。」
翔《…確かに、そうだよね。 ……人だかりができてるし…。》

本当にそうだよ。

…だって、<ドラゴン>の僕が町にいることはまさに異常事態だからね。

エメルは耳をピクつかせながら言った。

エメル「…あっ! 言ってたら来たにゃ!」
A「……こんなに集まって何事? さわぎなr……!!? <アクアドラゴン>!!?」
B「<アクアドラゴン>が町に出るのは初めてだな……。 …追い払わねばならないな。」
A「そうですね! …みなさん、ここは危険なので下がってください!!」

……と、そこに、<シャトレ>の耳、尻尾、足を持つ女の<獣人種>が幾多の尻尾をかき分けて姿を現した。

その彼女に続くように、鳥のような翼をもった男の<四足種>が群衆を飛び越して華麗に着地した。


……<四足種>。
これが少し前に話したもう一つの亜種。
<獣人種>と同じで獣の特徴を体に持っている…。

ただ、<獣人種>が<人間種>寄りなのに対して、<四足種>は獣に近い……。

決定的に違うのが、彼らの下半身。

彼らは必ず4本の獣の足と、それの首から下を持つ……。
そして、そこから上が人の腰から上になって必ず生まれてくる………らしい……。

…一言で言うと、腰を境に獣の首から下と、人の体を持っている……。

……何か複雑だよね……。

…エメルが言うには、「彼らは自分たちの事を獣に近いから『〜人』、じゃなくて『〜匹』って数えてる」…みたい……。


……琶国には一人もいないから、会うのは初めてだけど………。

凛「……本当に、足が4本あるのね……。」

凛も、彼らに対する感想をもらした。

…これもエメルから聞いた話なんだけど、<人間種>と<獣人種>と一緒に生活しているのは体の遺伝子の6〜7割までが獣の人だけ。
8〜9の遺伝子が獣の人は本物の“獣”みたいに野生で暮らして、独自の言葉を話す……らしい。

……もし出逢ったら複雑な気分になるだろうね……。

下半身が翼を生やした馬……、<ペガサス>の彼は<水竜>の僕を狙って再び羽ばたいた。

エメル「フェルノさん!! 待ってほしいのにゃ!!」
フェルノ「エメル!! 相手は<アクアドラゴン>だ! 人が倒せる相手ではない!!」
A「そうよ!! <ドラゴン>は私達……、人にとっても“天敵”だって事を忘れたとは言わせないわ!!」

迫りくる彼に対していたって冷静な僕の前に、僕の親友が見えている部分の毛を逆立てて立ちはだかった。

……正直、この状況、もう慣れたよ……。

<シャトレ>の尻尾を持つ彼女も、尻尾の毛を逆立てた。

莉奈「いや、この<ドラゴン>も術士で……」
フェルノ「術士!? <ドラゴン>が!? あり得んだろ!!」

……何かデジャヴだな……。

フェルノさんは空中で羽ばたきながら怒鳴った。

A「召喚士でさえ連れているのを見たことが……」
エメル「姉さんは黙ってて!!」

…あっ、この人、エメルのお姉さんだったんだ……。

エメル「この<水竜>……、僕の親友には手出しはさせない!! 彼も僕達と一緒に警備任務に来た術士……。 ……尻尾に誓ったっていい……。 だからたとえ尻尾を切られても僕はここを動かないから!!」

エメル………。

親友は自身の姉の言葉を遮り、覚悟と共に背中の武器に手……、いや、尻尾をまわした。

……すごい気迫……。

彼の心からの叫びによって、辺りの空気は騒然となった。

翔《エメル……、ありがとね。》

僕は彼の言葉に、黒い瞳から暖かいものが溢れだした。

フェルノ「……だが町の安全のため……、見逃すわけにはいかん!!」

凛・霜「「!!! 翔!!」」

!!

エメルの叫びは、虚しく[梁唯]の風を震わせるだけだった。

……でもエメル、君の気持は伝わったよ。
もちろん、僕も君の事を親友だと思ってるよ。

……入隊する前、“龍の呪縛”の事を話しても白い目で見なかったのはエメルだけだった……。


……そんな僕には構わず、フェルノさんの{重撃}が迫る……。

……止めるにも、{earth}では間に合いそうにないし……。
……なら……。

翔《{lic}、{wall}!!」
フェルノ「何っ!? くっ!!」
翔《っ!! …凄い威力……。》

目を晦まして狙いを外す!!

僕は口内に光の魔力を溜め、球状にして撃ちだした。
それが少し飛んだかと思うと、激しい光と共に弾ける。

それと同時に、僕は迫りくる衝撃に備えて透明な壁を創りだした。


その壁はフェルノさんの蹄による蹴りにより、弾ける氷片と共に崩れ落ちた。

……ともあれ、何とか威力を下げることに成功した。

……でも、痛い……。

彼の蹄は壁を貫通し、僕の蒼鱗を捉えた。

……元の体だったら、間違いなく逝ってたよ……。

フェルノ「くっ……、防がれたか……。 …なら、これならどうだ!!」
ルィソウ───翔!! 代わって!! {changent}!!───

重撃を防がれたフェルノさんは旋回し、体勢を立て直すと攻撃する気のない僕を狙って再び急降下した。

翔《ちょっ………》

次は如何にして防ごうか考えている僕の頭の中に、本物の<水竜>の声が響いた。
そして、答えを返す前に僕の意識は自身の“精神世界”へと強制的に引っ込んでいった。
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