□喧嘩するほど仲がいい
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目の前には多くの人と建物。


あちこちから物売りの大きな声と、子供達の笑い声。




「うわ…すっごい…」



思わず紅は、目の前の光景に驚いていた。




「この街はとても栄えているようですね。」



それはもう一目で分かる。

こんなに人が行き交うのだ。
これで栄えていないと言う方が不自然である。



「妖怪になんか襲われたことねーんだろうな…」



確かに、この町の人は皆幸せそうに笑っている。
こんな素敵な街まで妖怪は襲うのかっと少し悲しく思った。






「なぁなぁっ!肉まん!!肉まん買っていいっ?」




「あーっ!悟空!!蒼もいるっ!」




さっそく美味しい匂いにつられて
二人が走り出す。





「あ、ちょ…。……いいの?あの子ら放っておいて?」




この人の量だ。はぐれでもしたら、なかなか見つけれない。





「放っておけ。」





「あの二人なら迷子にはならねえよ。」





「そうなの?」






「あの二人は特別ですからね。」





「特別?」





「蒼から聞いてねぇの?」






「何を?」




そう言うと、八戒は優しく笑って答えた。




「僕らは実は妖怪なんです。」


あまりにもさらっと普通に言うので、一瞬理解ができなかった。
妖怪は影響のせいで暴れてて、今は容易に近づけないし、危険なものだと理解していた紅は驚いて目を丸くする。


「………えぇっ!?!?」



驚いて3人を見たが、一人怪訝そうな顔をした三蔵が、




「…俺は違う」


と口を開く。





「妖怪みてぇなもんじゃん。存在が物騒(仏僧)な三蔵サマ??」


そんな三蔵の肩に手を置いて、
茶化す様にからかう悟浄。





「殺すぞ、クソ河童」



よりいっそう眉間のしわが濃くなる三蔵。





「まぁ、僕らは他の妖怪とは少し事情が違うので、蘇生実験の影響は受けていませんが…」




言い争う二人を置いて、八戒が話を進める。





「悟空と蒼についてもですが、あの二人は少し特別でして…。悟空が斉天大聖。蒼が駆神大聖という、妖怪でも人間でもない異端児と呼ばれる存在なのです。」


妖怪でも、人間でもない。
異端の存在。

何とか理解はしたが、あまりこれといって実感などはない。


見た目がかけ離れてるだとか、そういうのがあれば少しは変わったかもしれないが、
あの二人はただの人間にしか見えない。





「耳とか鼻とか犬並みに効くんですよ」




八戒が「スゴいですよね?」っと言ってから、もう後何秒かでこんな繁華街で、
銃を出しかねない三蔵と、その元凶である悟浄の喧嘩を止めにかかる。


なんだろう。
人間だとか、妖怪だとか、今まで意識したことなんて無かった。

第一、元の世界には私の知る限り、妖怪というのはあくまで、言い伝えや、お話の中の存在で、
目の前で喧嘩してたり、
向こうで屋台見ながらはしゃいでる2人が
自分とは違う種族、違う存在であるというのを完璧に理解するまではまだ少しかかりそうだ。


「あのさっ!!」


3人に聞こえるように声をかけると、
3人はピタッと止まって振り向く。




「なんだか…まだよく理解した訳じゃないけど……皆が人間だとか、妖怪だとか、そんなのって関係ないと思うから。様は、私が一緒に居たいか居たくないかで…」


この言葉は、半分は自分が理解するために、言い聞かせる様に言っていた気がする。



すると、悟浄が笑って紅の肩にポンッと片手を置いて、



「なんかさぁ…最初会ったときから思ってたけど、紅って男前だよな」






「そうですね。頼もしいじゃないですか。」


八戒は笑顔でそれに同意した。





三蔵はというと、先程の眉間のしわが少しましになった気がする。


紅を見据えて、


「……悪くねぇんじゃねぇか。アイツらはアイツらで、俺は俺。お前はお前だ。」


そう言いながら、紅の横を通りすぎていく。




「この先が宿みたいですね。………悟空!!蒼!!行きますよー」





「えぇっ…肉まんはっ?」



2人は肉まんを
指差して屋台の前で駄々をこねる。




三蔵が二人の前にスタスタと歩いて行くと、


「さっさと来い!バカ猿ども!」


っと、ハリセンで二人を叩いた。




「いっ…たぁー」

「いってぇっ…」


二人は頭を抱えてしゃがみこむ。


ハリセン…?





「何あれ、どこから出てきたの?」





「さぁ…?」



「ほんとだよな〜。」






「悟空、蒼。宿に着いたら夕食がありますから少し我慢してくださいね」


三蔵に連れられて、二人が戻ってきた。
八戒が優しく声をかけると、「なら早く行こう」と走り出す。





「お前ら食い意地張りすぎだっつーの。」





そんな彼らを三蔵はため息をつきながらついていく。



「……」



そんな三蔵を見ながらふと思った。




「お父さんも大変だね」





「誰がお父さんだ。殺すぞ。」






「いいじゃん。お父さん。」






「…黙れ」




眉間にシワを寄せる彼を見て、
私は何故か可笑しくなって笑った。


そんな私を見て、三蔵は一瞬嫌な顔をしたが、小さくため息をついたかと思うと眉間のしわが少し消えていた。








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