蒼
□過去の夢
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あの頃、私は
とある山の上の寺院に住んでいた。
年齢は5、6才だったと思う。
ここは、孤児院でもあったので
私の他にも子供達が10人程住んでいた。
育ててくれていたのは、寺院の住職とその住職のお嫁さん。
二人とも私たちを本当の家族の様に育ててくれた。
「とうさーんっ…紅がっ!紅がぁー…」
男の子と女の子が寺の前を掃除していた住職、陵雲ーリョウウンーの前に駆け寄った。
男の子は泣いていて、その隣で女の子はムスっとしている。
「私何もしてないもん」
そんな私たちを見て、陵雲は優しく微笑んで、しゃがんで二人に視線を合わせた。
「何があったんだい。落ち着いて話てごらん。奏流ーソウリュウー。」
「おれが…っ!鬼ごっこしたいっていったの…紅、全然聞いてくれないんだ…!」
泣きながら、嗚咽しながら…一生懸命話す奏流。
「だって、鬼ごっこなんて朱里ーアカリーができないじゃない。」
朱里とは、孤児院の中でも一番幼い子で、2才である。
いつも皆一緒に遊んでいるのを、
紅が朱里の面倒を見て、遊ぶ皆を見守っている。
今日は朱里も一緒に遊べる事をしようって話をしていたらしいが、その事で奏流と紅が喧嘩したらしい。
「だからって…無視しなくたって…うぅー…」
「泣かないでよ…奏流が考えなしなのが悪いんだもん」
「おれ、悪くないかんな!!ダメならダメだって言えよぉっ!!」
「なんでよ。………面倒。」
変わらず奏流は泣いていて、紅は他の子供達が遠くで様子を伺っているのを見つけて、そっちに行こうと体を傾けた。
「紅。」
陵雲が紅を呼びとめる。
「何?」
紅が立ち止まって振り向く。
「『与えられた状況を疑うのも罵るのも嘆くのも大いに結構だ。 でも無視してはいけない』」
「………何?それ?」
「 異国の詩人の言葉でね、他人を嫌うも怒るも、それは紅の自由。だけど、無視だけはしてはいけない。 それは相手の存在を消すのに等しい行為だからね」
「……」
「分かるかい?紅は1度も奏流の意見を聞かなかった。紅は朱里のことを考えてそうしたのかと思うけど…奏流にはちゃんとそう伝えるべきだ。人間は言葉にしないと伝わらないからね。」
「うん…」
陵雲は奏流と紅を抱き寄せて、二人の頭をぽんぽんっと撫でた。
「紅も奏流も優しいいい子だって私は知っているよ」
奏流と紅は照れくさくなって、
頬を赤くしながら笑った。
「お話は終わったかしら?」
陵雲の妻、春瑛ーシュンエイーが、他の子を連れて笑顔で声をかける。
「あぁ…」
「じゃぁ、ご飯にしましょうか」
その言葉に、二人は揃って、
「「うんっ!」」
っと言った。