□第1章
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 某県にある、とある小さな会社でのお話。
その会社では、昼間でも何か出そうな雰囲気漂う古い家を買い取り、倉庫として使っていた。
その倉庫整理に、まだ入社間もない真実と、中途で入ったばかりの久美の二人が赴かされていた。
「ここ何か出そうで怖いんですけど…」
弱気に呟いた真実に対し、実はそういった類が苦手ながらも怖がる素振りを見せるのはプライドが許さない久美は、
「そういう事言うと寄って来るらしいから、何も考えなければ大丈夫だって。」
と、通常の声の調子で返した。
だが、そんな二人に突然思わぬ現象が襲いかかった。
気づけばあったはずの床が消え、何処かへ落下していた。
(何この少女マンガ的展開――?!)
焦りが大きすぎて逆に冷静なツッコミを心の中で呟いた久美。
真実はただただ目を閉じて恐怖から逃れようとしているようであった。
落下が始まってすぐ、目下に砂漠が広がっているのが目に入る。
どこかで見た事があるような既視感に襲われる。
そこへ更に見た事があるものが目に入る。
ジープに乗った四人組の男達。
「最遊記?!」
久美がそう叫んだのを聞いて、真実はパッと目を開いて周囲の様子を見やった。
実はこの二人、最遊記が大好きであった。
それがきっかけでよく話すようになったという経緯もある。
つまりこの状況は、二人にとっては正しく少女漫画の如き展開、夢の世界に足を踏み入れたようなものだった。
「悟空ー!!」
悟空大好きな真実が思わず叫ぶ。
その声に気づいた悟空を始め三蔵一行が空を見上げる。
空から二つの影が落ちてくるも、三蔵は見なかったふりをし、その他三人は何とかしなければという使命感に駆られる。
特に悟浄などは、落ちて来るのが女だと解ると、抱きとめる準備万端の様子。
だが落下位置にジープを急転回させた事により、その態勢は見事に崩される事となる。
そして結局、真実は自分から飛び込むように悟空の元に落ち、がっちり受け止められて感動に包まれる。
一方久美は、あろう事か三蔵の真上に落下…
これは死んだ、と思ったのだが、意外にも舌打ち混じりながらキャッチされて安堵する。
真実は目を輝かせて嬉しそうに
「ありがとう、悟空!」
と素直に礼を述べる。
が、久美はというと、早くどけという目で見られて、どうしたものかと悩んでいた。
そこへ助け舟とばかりに悟浄が
「俺の膝貸してあげるからこっち来なよ。」
どこか下心満々な声でそう言った。
それを受けて八戒は急ブレーキをかけた。
「とりあえず、お二人がどちらから来られたのか解りませんが、近くの村までお送りします。三蔵、それまでそちらの方を宜しくお願いします。」
「何で俺が…」
「嫌なら三蔵が降りてくれてもいいんですよ?」
満面の笑みでそう言われて、三蔵はチッと舌打ちを打ちながらも大人しく従うよりなかった。
しかしながら不機嫌全開の三蔵を前に、久美はカチンコチンに固まったまま、動く事も口を開く事も出来なかった。
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