□第2章
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 三蔵一行を狙ってきた妖怪達を退けた後、久美は悔しさに身を震わせていた。
「大丈夫ですか?」
気遣うようにそう言葉をかけてきた八戒の声さえ耳に入っていなかった。
今までの付き合いから何となく気持ちを察する事が出来た真実は、ポンと久美の肩を叩いて言った。
「刀でもあったら余裕だったのにね。」
そして八戒達の方を振り返ると、
「次の街で刀か、悟空の如意棒みたいなのでもいいから買ってもらえないかな?久美さん武器持たせればすっごく強いから!」
と、完璧なフォローを入れてみせた。
久美にとってはそれがまた悔しくもあったのだが、嬉しくもあった。
一人でなくて良かったと、心底思わされた。
ただ、三蔵が何も言わない事だけが怖かった。

 買い溜めていた食料が尽きる前に次の街に辿り着く事が出来た一行は、先に宿を取ると、その足で買い物へと出かけた。
買い出しは八戒に悟浄、そして久美の三人であった。
先日の襲撃以来、何事もなく此処まで来たのだが、久美は明らかに気を遣われている気がしていた。
真実はすっかり打ち解けて、先程も買い物組を見送る際にも
「悟空と三蔵は私がちゃんと見張ってるから安心して。いってらっしゃい!」
などと楽しげに送り出された。
場を明るく出来る真実の性格が羨ましくてならなかった。
何でも思い詰めて自分を追い込んでしまう自分には、あのような和やかな空気は決して出せない。
そう思って改めて落ち込んでいると、悟浄が明るいテンションで言った。
「あそこに武器屋あるぜ。久美ちゃん見て来たらどうだ?」
「そうですね。自分に合った物を見繕ってみては如何でしょう?その間に僕達買い出しを済ませておきますので。」
二人に背中を押され、久美は示された武器屋に入って行った。
一見平和そうな街だと思ったのに、そこには刀から銃まで、あらゆる物が揃っていた。
とりあえず刀が置かれている場所で足を止めると、そこに日本刀の脇差に似たものが置いてあった。
店主に頼み込んで試し斬りをさせてもらうと、その斬れ味にも驚かされた。
まるで本物の日本刀。
久美はこれしかないと思った。
そこで値段交渉を重ねていると、しばらくして八戒と悟浄がやってきた。
先程とは打って変わって目を輝かせている久美を見て、二人は安堵した。
そして八戒による見事な値切りによって安く譲ってもらった刀を手に、久美達は宿へと戻った。
しかし扉を部屋の開けた所で、八戒が黒いオーラを発した。
ギクリとする久美と悟浄。
一体何があったのかと部屋を覗いてみると、自分達が出かけている間に用意されたらしい夕食の大半が無くなっていた。
その上、何故か真実が涙目になっている。
隣ではオロオロした様子の悟空。
まるで何事もなかったかのように煙草を吸いながら新聞を広げている三蔵。
恐らく八戒の怒りは夕食に対するものであった。
食べ散らかされている、という表現がピッタリの卓上。
綺麗好きの八戒の目には余る状況であった。
「三蔵、悟空、それに真実さん、一体何があったんですか?」
穏やかな声に聞こえるが明らかに怒りの混じった八戒の問いに、真実は涙目で訴えた。
「最後に食べようと隠してあったのを、悟空が全部食べちゃったんです…楽しみにしてたのにー!」
何とも下らない事で真実の機嫌を損ねたらしい悟空。
だが泣かれてしまっては、さすがに食い意地のはった悟空も罪悪感を抱いたらしかった。
「だから悪かったって!次は好きな物何でも譲るからさ、許してくんないかな?」
何度もこのやり取りを繰り返したのであろう。
真実はいい加減拗ねるのを諦めたのか、
「絶対だよ?約束だからね!」
と、ようやく涙を引っ込めた。
久美はこんなやり取りがしたかったという現実世界での真実の言葉を思い出して、少しばかり呆れさせられていた。
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