□第2幕
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 捲簾達の一件から長い時が過ぎて、下界では玄奘三蔵一行が牛魔王蘇生実験の阻止へと向かっていた頃、阿修羅の封印が解かれようとしていた。
その頃、ある事件が起きようとしていたのだ。
阿修羅にとっての天敵である帝釈天が、三蔵達がかつての反逆者の転生である事を知り、その存在を消そうと企んでいた。
阿修羅が二度と刃向かう気など起こさぬ様、縁あるものを断ち切ろうと考えたのだ。
本来下界の者に手を出す事など赦されないのだが、立ち回りの旨い帝釈天は既に手を打ってあった。
部下を下界へと向かわせ、一部の人間や妖怪を操り、一行を殺すだけの力を与え、ただ彼らが罠にかかるのを待つのみの状況を作り、己は高みの見物を決め込んでいた。
だが、気晴らしに一行を監視していた観世音菩薩だけが、その一部の変化に気づいた。
どう手を打とうかと考えていた時、真っ先に脳裏に浮かんだのは阿修羅であった。
名目があれば封印を解く事も可能。
何より、現世の三蔵一行に最も近しい者であり、裏で糸を引いている者をあぶり出すのに最適な者である事は確かだ。
自分が口を出して面倒事を抱え込まされるよりも余程楽である、というのもあったが――
しかし、過去の遺恨を断ち切らせてやりたいという思いもあった。
そこで観世音菩薩は、阿修羅に封印を施した釈迦如来に今回の一件を話し、封印を解く事を無理矢理承諾させた。

 阿修羅復活に一族は歓喜したが、いざ封印を解いた観世音菩薩は、半ば絶望を感じていた。
何故なら、目覚めた阿修羅に『春嵐』としての記憶がなかったからだ。
悲しみに耐えられず記憶を無意識に閉じ込めてしまったのだろうが、『春嵐』として存在した時間を覚えていない阿修羅を動かすのは容易ではなかった。
「帝釈天を討つのが私の役目である事は解る。だが、何故下界の者を助ける必要がある。むしろその罪を犯させる事で、私が有利に立てるというもの。」
菩薩にしては熱心に説得を重ねたものの、阿修羅は頑として動かなかった。
いよいよ面倒くさくなってきた菩薩は、最後にこう言った。
「また後悔したいのなら勝手にしろ。」
何を後悔するのかと思う阿修羅だったが、何故かその言葉に対し虚無感に襲われていた。
だが、己の抱く後悔とは、帝釈天との決着を付けられなかった事のみ。
再び機会を与えられた事に歓喜こそすれ、それ以外の感情など抱く理由もなかった。
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