短編集

□キレイゴトのセカイ
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 数分間、俺は宙にいた。そのうちに地球の中心にたどり着くかもしれないと、不安になった。でも、浮遊の旅は突然終わりを迎える。
俺の背中にひんやりとした感覚が来ると、順に体が水に包まれていく。水圧で俺の落下速度は緩まり、速度ゼロになる。水面に浮き、俺はやっと落ち着けた。
「なんだよ、本当に」
 昼の明るい世界、どこかの山中の川にたどり着いたらしい。今の技術では不可能なほど深い穴。そこに俺は落ちた。
 川岸には一人の女性が立っていた。
 俺は泳いでその女性に近づいた。突然不審な男が現れたら動揺するかもしれないが。今は気にしている場合ではない。
「すまない、ここはどこだ?」
 俺はできる限り丁寧な口調で言った。育ちのせいで慣れないが。
 彼女は俺の予想に反し、落ち着き微笑んで、質問に答えた。
 
「ここはキレイゴトのセカイ、向こうの世界であなたがいた場所にあたる座標です」

「は?」
「ようこそキレイゴトのセカイへ」
「きれいごとの、せかい?」 
 俺は彼女の指示で、彼女の用意した服に着替えた。彼女が言うには俺を待っていたそうだ。
「はじめまして、観察員の清内空です」
「清内、くう?」
「はい、おおざっぱな説明を聞いていると思いますが。あなたには、これからキレイゴトのセカイの日本で暮らしてもらいます」
 俺の頭はこの状況を理解できていなかった。
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