短編集

□いつものクリスマス
1ページ/5ページ

軽快にベルの音を伴奏として、子供の合唱が響き渡る。曲名は『ジングルベル』。今日十二月二十四日にクリスマスセールでこの商店街はにぎわう。
 俺はクリスマスデートで来ている。
「合計で二千九百五十円になります。」
 と言うことであればいいのだが、実際は叔父が経営するケーキ屋で今日と明日で日雇いバイトだ。サンタのコスチュームに身を包み、ケーキ屋『ソフィア』のクリスマスケーキを露店販売する。
「ありがとうございました」
「またね、大輝くん」
「来年も待ってます。高木さん」
 大学受験があった去年を除き、俺は毎年のようにクリスマスのころにはここでバイトをしている。バイト代はとてもいい。叔父さまさまである。普段からこの商店街で人気があるこの店だから余裕はかなりある。
 また、叔父の顔立ちは色男といえるほど整っている。女性からも人気があるのだが、未婚である。理由としてはただ一つだけである。
「大ちゃんがいると助かるわ」
「ひと段落ついたんだ叔父さん」
「おねえさん、せめて叔母さんにして」
 叔父はおかまである。高収入、顔立ちの良さ、体格もしっかりしている。家事も一通り完璧にこなせる。それらをすべてチャラにして叔父を結婚から遠い存在としている。
 叔父曰く、「もし同性婚が出来るならもうしているわよ。出来なくても今の生活が幸せ」だそうなので問題はない。語尾にハートマークがつきそうな言い方をしているのが気になったが、幸せならば俺としては別にどうでもいい。
「せっかくのクリスマスなのにデートの約束しないのね」
「しないんではなくて、する相手がいないんだよ」
 毎年、この会話絶対する現在進行形で叔父は口角を大きく上げて笑みを作っている。彼女いない歴イコール年齢である俺にとってストレスになる内容だ。
 だから、このことをいじられるのだろうが。
 大学に入れば遊びまくりの、女の子と楽しみまくりと思っていた。しかしながら実際、ほとんど女の子と話せないし、レポートの提出で忙しい。
 一年間必死に勉強に徹していたのにあまりにも報われない。
「大輝くん久しぶりね」
「宮城さん、いらっしゃい」
「今年はいるのね」
「去年は受験で」
 クリスマス以外でも小間使いで働く俺と面識がある常連さんは多い。今目の前にいるグラマラスな人妻さんとも四年もの付き合いだ。
「もう、宮城さんたら。この子大学に入っても彼女の一人もいないのよ」
「あら、無垢ね」
 宮城さんは厚い唇を色っぽくゆがめる。年ごろの男の子に向けてはならない顔だ。興奮してしまう。
「今年もこれでいいですか?」
「いや、コッチの大きい方をお願い」
 俺は宮城さんが指定したケーキを取り出し会計をする。
 受け取った宮城さんは首を傾げながらバイバイと手を振って帰っ行く。
「だめよ、人妻に手を出しちゃ」
「手、出さないわ!」
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ