短編集

□フレンドノベル
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 今日最後の授業が終わり、チャイムの音がする。
 昔の某英国ラジオ番組オープニングテーマであった音楽は、日本で学校の授業の終始を知らせる音となり。今、俺にはゴングになっている。
 左に向き、目の前にいる人に話しかけようとする。その人はかわいい女の子というわけではない。単なるクラスメイトの男子だ。
 他人は俺をあざ笑うだろう。別に普通のことだ、クラスメイトの男子に話しかけるなど。
「あの」
「はー、やっと終わった」
「森沢、帰りにお好み焼き、食べようぜ」
「えー、金かかるからヤダ」
 俺はまともに他人に話しかけることができない。
 幼児期のときからよく俺は一人で遊んでいた。別に誰かと遊ぶのが嫌なわけではない。ただ話す機会がなかったのだ。その結果、気づいた時には俺に一人も友達と呼べる人はいなかった。
 俺は中学三年生であるにもかかわらず、人と話し始める方法も全く分からなかった。行事や買い物などでの必要に迫られたときは形式的だが会話をできる。日常で家族以外の人と話す機会を作れないのだ。
 何とか友達を作ろうと思い、行動をしようとするも変化はなく。寒さが和らぐ高校一年生三学期である現在も、未だに俺はひとりぼっちだ。
「すずしろさーん、一緒に帰らない?」
「ダメだよ、ふうちゃんを男子の毒牙にかけるわけにはいかないから」
「はは」
 教室のドア近くで男女の会話が聞こえる。クラスのアイドルである清白(すずしろ)風(ふう)さんと彼女の友達、彼女を狙うチャライ男子の会話だ。
 俺は彼を尊敬する。俺は単なるクラスメイトの男子に話しかけることもできないのに、彼は平気で女子にも話しかける。むしろ、男子と話しているところを見るのが稀なほどだ。今の俺では女子に話しかけることはできない。俺が見詰める清白さんに話しかけるなど到底できない。
「はあ」
 俺は自業自得であるにもかかわらずため息をついた。
 飯淵(いいぶち)友樹(ともき)はこのクラスではほとんど認知されていない。
俺は孤独だ。
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