桜物語への扉

□大切な日常(執筆中)
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─大切な日常ー



『いいか、逃げるなよ──。背を向ければ切る。』

──あの夜から、私の運命の歯車は狂いはじめたのだろう。

【新選組】会津藩お預かりの京で有名な人切り集団。

それを象徴とする、浅葱色の羽織は、その時の私には、とてもおぞましく、只の恐怖の化身でしかなかった。



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 瞼に、うっすらと光が差し込む。それすらの光でも、寝ていた私には、十分すぎるほどの光で、閉じていた瞼を少しずつ持ち上げる。

「んっ……もう、あ…さ?」

左目を開け、障子へと視線を向ける。まだ薄暗いが、太陽が昇ってきたことを知らせるように、障子同士によってできた隙間から光が差し込む。

私は、まだ寝たいと言っている身体を無理やり起こし、寝間着から、いつもの着物へと着替える。

「あっ…確か、今日は炊事当番だったけ?」

着替えが終わり、髪を結っている手を止めて、私は、そう呟く。

「えっと…今日は斎藤さんと…えっと…「僕だよ」

………え?聞き覚えのある一つの声が私の言葉を遮った。

否。『聞き覚えのある声』という部分が自分の勘違いであってほしい。

だって、いるわけないよ。うん。まだ、外は薄暗いし。そうそう。いるわけないない。

自分で自分を落ち着かせるように、誰に向けてるわけでもない笑顔を作る。

「ははっ、やだな…私。まだ、眠気が取れていないのかな?」

「へぇー…、なら、僕が眠気をとってあげるよ」

「っっっ?!!!///おっ、沖田さんっ?!///」

とっさに、後ろへと身体を向ける。

そこには、いつものニコニコと微笑んでいる沖田さんがいた。

「千鶴ちゃん、今日の炊事当番ちゃと覚えてた?というか、僕を無視するなんて良い度胸してるね、君。切っちゃうよ?」

「お、お、お、沖田さん…。あの、無視してしまったことは、申し訳ありません…。えっと、沖田さんは、いつからいたんですか?///」

私は、頭に浮かんでいる疑問を沖田さんに問いかける。

結果的に、無視した事に申し訳なさを感じるが、私には、それより、その疑問が気になってしまう。多分、今の私は、顔がタコのように赤く染まっていることだろう。

「ん?寝間着を脱ぎはじめたところから…かなー」

沖田さんは、とぼけるような仕草で、横目で私の姿を捕らえながら、口角を上げた。

「えっ?!///何で、声をかけてくれないんですか?!」

私は、怒りと恥ずかしさで頭がどうにかなりそうだった。

「何?だって、千鶴ちゃん。声かけたら、脱がないでしょ?」

いやっ、そうですけども!///

私は、あまりの言葉に、返す言葉が見つからず、口をパクパクさせる。

すると、沖田さんが、その私の光景を見てからなのか、「ふっ」と息をたてたかと思うと、笑い始めた。

「はっ、はははは、千鶴ちゃん、最高だよ!」

「っっ?!!何で、笑うんですか?!///もうっ!!」

沖田さんは、笑いすぎてなのか、目から出た水滴を自身の指で拭いながら口を開く。

「ごめん、ごめん、千鶴ちゃん。冗談だからさ」

……どこから何が冗談なのか、すごく不安です。

そんなことを思っていると、沖田さんは、「あ、そうそう」と言った。

私は、それに「どうしたんですか?」と問う。

「炊事当番…一君が待ってるから、早く支度しなよ」

誰のせいですか?!と言いたい気持ちを抑え、私は、まだ結われていない髪に手をかけた。



「遅い」

炊事場に行くと、すでに斎藤さんが料理の下準備に取りかかっていた。 

「すみません…斎藤さん…」

私は、申し訳なさに謝罪の言葉を言う。

斎藤さんは、私を横目で見やると、沖田さんに身体を向けた。

「総司。俺は、あんたに雪村を呼んできてくれ、と言ったはずだが…?」

「ごめん、ごめん。一君、ちょっと、行ったら面白いことがあってさ」

「面白いこと?」

斎藤さんは、沖田さんの言葉に反応した。

「うん。丁度行ったら、この子が着替えをしてたところでさ」

えっ?沖田さん、冗談って言ってたような…本当だったの?!

斎藤さんを見ると、「はぁ」とため息が混じった息を吐いていた。

「雪村。総司の冗談だ。安心しろ」

「えー、一君には、気づかれちゃうか…面白くなるかと思ったのに」

沖田さんは、「残念だなー」とつまらなそうな顔をして言う。

私はひとまず、本当に冗談だったことに安心し、胸をなでおろした。

「……それより、総司、雪村。」

すると、斎藤さんは、動かしていた手を止め、私と沖田さんの方を見やる。

「ん?何、一君?」

「はい、なんでしょうか?」

「手を動かせ。もうじき、隊士たちが起きてくる頃だ…」

その言葉に、私は斎藤さんの止めた手の方に目を向ける。
そこには、鍋に入った味噌汁がぐつぐつと音を立てていた。

「はっ?!すみません、斎藤さんっ!!!すぐ、取り掛かります!!!」

私は、炊事当番ということを思い出し、慌てて、おかずの準備に取り掛かった。




朝食が終わり、私は、自室に戻ろうと廊下を歩いていた。 

「おーい、千鶴ー!」

後ろから、自分を呼ぶ明るい声に私は、振り向いた。
声の主は、もちろん平助くん。
平助くんは、私にかけよって、口を開いた。

「これから、八番組が巡察なんだけどさ、千鶴も行くか?」

「え?いいの?土方さんは?」

私の問いに平助くんは、「大丈夫大丈夫」と笑って答えた。

「土方さんには、一応声をかけてあるから、千鶴は心配すんな」

「そうなの?平助くん、ありがとう」

平助くんは、また私に「良いって」と優しく微笑んで答えた。
いつも、同い年ぐらいに感じる平助くんだけど、こんなときなど、年上なんだと、改めて自覚させる。

「どうした?千鶴?」

平助くんは、私の顔を覗きこんできた。
 

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