BL

□秘密の場所1
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「サメちゃん、泣いてるの?」

先生の顔が見られない俺は俯いたままなのに、泣いているのには気付かれてしまった。
細くてきれいな指が、涙をそっと拭ってくれる。

「…先生、ゴメンね」

最後まで気、つかわせちゃったね。
どこまで優しいの、先生。嬉しいけど辛いって、こういうことなんだね。

「なんで?気持ちよかったよ」
「ふは」

キモチイイ、なんて。
嬉しいけど嬉しくないよ。
いま好きな人とか恋人とかに、そういうこと言ってんの?言ってきたの?

「なんで笑うかなー」
「だって、いまそのタイミングでそんなこと言うなんて」

予想外だったんだもん。仕方ねぇじゃん。
…そういう突拍子もないとことか、好きなんだよ。

「えー。俺もっと不謹慎なこと言うつもりだったのに」

乱暴に涙をぬぐったら、涙はちゃんと止まってくれた。

「なに?言ってよ、気になるから」

先生の言葉が聴きたい。ねぇ先生言葉を紡いで。
もう無いかもしれない二人の時間。
もっと先生の声が聴きたい。

「…キモチかったから、もっかいシて?」

へらへら笑ってた顔が、珍しくまじめに、どこか切なげになる。

「…いーの?」
「うん」
「ほんとに?」
「サメちゃん、あんま、確認しないで」
「なんで?」
「……センセイの俺が、生徒誘っちゃうなんて、たぶん、ダメだから」

コツンと、額同士がぶつかる。
先生のあたたかい息が鼻にかかる。
くすぐったくて、色っぽくて、体中がおかしくなる。
血液ぜんぶ煮えたぎってるみたい。

「先生」
「なに」

「今だけ、田山…さん、って、呼んでもいい?」
「…順って呼んで。愛弥」

とろけるようなその声に、思考は全部トんでしまった。

目の前の先生の顔をつかんでキスをする。
一秒を、一瞬を惜しく感じたから、もしかしたら少し乱暴だったかもしれない。

二人で口を開けて、激しく舌を絡ませる。
先生の口ん中は熱くて、唾液でいっぱいで、すごくエッチだ。
ぐちゅって音がいっぱいしたから、余計エッチに聞こえたのかもしれない。

鼻から漏れる息が熱い。
体も、口ん中も、指先も、ぜんぶ熱い。
俺も、先生も。

二人して積極的にいろんな場所をさぐりあった。
頭の後ろに回された先生の手が、セットした髪をぐしゃりと崩す。
その手はそのまま下がっていって、首や背中を撫でてゆく。



「サメちゃん、時間が無いんだ」
「え?」
「授業終了時刻までもう半分くらいなんだよね」

いつのまにそんなに時間が経っていたんだろうと、俺も驚いた。
けれど半分くらいってことは、まぁ結構あるよね?

先生の髪を撫でていたら、くすぐったのか右手を取られてしまった。
髪を撫でられないのはちょっと残念だけど、こうして手を繋いでくれるならそれでもいい。
そう思ったのに、予想外にその手は先生の下腹部へ誘われる。

「せ、せんせ!?」

「愛弥、…イヤ?」

「いや、イヤっていうか…」

触れたその場所は熱くて、カーゴパンツの上からでもかたく盛り上がっているのがわかる。
キスだけ。キスしかしてないのにこんなになるなんて。

(ねぇ先生、もしかして)

「イヤなら、悪いけど今すぐこっから出てって。俺これなんとかしなきゃ、校舎ん中にすら入る勇気ないし。
…でももしイヤじゃないなら…」

ぎゅっと、さらに強く手をソコに押し付けられる。
熱い、カタイ。

先生もすげぇ興奮してんだよね?
嫌なわけ、ないし。嬉しいに決まってる。

頬は少し赤くて目もウルウルしていて、それにも、これが現実なんだって訴えられる。

(あぁ、なんてカワイイ人なんだろうか)

「愛弥…早く…。時間ないから」

「んっ…」

そういって先生も俺の股間に手を伸ばした。
俺のだって先生に負けないくらい張り詰めてて、たぶん先生より限界に近い。
それに触れるなんて大胆な行動をするくせに、今までにないくらい顔を真っ赤にして、とても恥らっているようだった。

「順。シたげるから、自分で開けてみせて」
「へ!?」
「お願い」
「…愛弥って、サド?」
「違げぇし。…でもマゾじゃないなぁ」

もうそんなことはいいから、早くしてよ。夢じゃないって、早く思い知らせて。

先生は俺の手を離すと、ベルトをはずし、ボタンとファスナーを開けて、下着をずらして先の濡れたイチモツを取り出した。

(やべ。サイズ負けてる!)

先生のが身長高いからもしかしてとは思ってたけど、想像以上にデカイ。

「…キモチワルイ?」
「あ!?違う違う!」

不安に揺れる先生の瞳。慌てて先生の頭を撫でて、頬に軽くキスをする。

「ごめん。見とれてた」
「ウソ」
「ホント。…ねぇ。俺も出しちゃっていい?」

目を合わせたまま、こくんと首が縦に振れた。
許可を得た俺は急いでベルトを外し、ズボンも下着も膝まで下げてしまう。

「愛弥…」

先生がうっとりと俺のイチモツに手を伸ばす。
軽く手を添えられただけなのに、頭の先まで甘く痺れていく。

「…順、膝立ちになれる?」

俺も先生も膝立ちになってピッタリと真正面から抱き合った。
ビンカンなとこ同士が触れ合って、そこから体全部ヤケドしてるみたい。

「順、熱いね…」
「熱い…はやくシよ」
「うん…」

ふたりはピッタリなタイミングで口付ける。
下腹部に手を伸ばすタイミングも一緒だった。

手もイチモツも先生のほうがおっきくて、ふたりでふたりぶんのモノを包む。
ふたりとももうガチガチにかたくて、先が少し濡れていた。

普段の先生からは想像できないそのエッチさに目の奥がクラクラする。
先生って性欲とかあるのかなって思ったけど、バッチリあんだね。
キスの合間に漏れる声は、欲望の色で染まっていた。

指を絡めて上下に動かすたび、くちゅ、くちゅって、いやらしい水音がする。
この音にこんなに感じるなんて、考えたこともなかった。

「は、あ、あ」

キモチくて口を閉じられない。でも目はつぶってしまう。
先生をいっぱい見てたいのに、愛の言葉を紡ぎたいのに、快感が強すぎてどうにもならない。

いまはまだ授業中で、空は青くてとてもさわやか。
そのなかで、汚い屋上で、俺たちはすごくイヤらしいことシてる。

ねぇやっぱり、現実か夢なのかわかんなくなるよ。
こんなに体が熱くなったことなんてないから、もうわけがわかんないんだ。

「愛弥、も、出るッ」

先生の左手が俺の肩をぎゅうっとつかむ。

小さな叫び声みたいなその声に、俺も限界を悟った。

「俺も、…んっ、んっ、」
「愛弥、もっと…ッ」

どんどん早くなる手にはもはやテクニックのカケラもなかったけど、俺たちふたりにはそれで充分だった。

二人の手の中で先に果てたのは先生のほう。
先生からビュクっと白いカタマリが出たのを観て、俺も絶頂を迎えた。



「はぁ、はぁ、」

お互いのシャツを汚してしまった。
精液まみれの手なんて目も当てられない。
天気がいいからか、腹に直接ついた精液だけはもう乾き始めている。

「せんせ…」
「愛弥」
「んう…」

ねっとりと、一周するみたく先生の舌が口内を犯す。
けれど大人な先生は本当にそれを一周きりで終えてしまう。
唇を合わせた瞬間にスイッチが入っちゃう子どもな俺は、離れていく先生の熱を目で追うしかできない。

「…そんな顔しないで」

ね、と優しく声をかけながらそっと目元なぞってくれる。
甘く溶けるような空気に、さっきとは別の涙が零れそうになった。

「俺はもう行くけど、サメちゃんはどうする?」

「…もうちょいここにいる」

「そっか」

でもちゃんと次の授業には出るんだよ、と、下半身の身なりを整えながら言うのがおかしくて、思わず笑ってしまった。

「出るよ。古文だし」

せっかく一時間、何の問題もなく先生を観察できる貴重な時間だ。
サボるわけなんてない。

俺が授業をサボるのは、よっぽど眠いときかこうして先生に会いに来るときくらい。
先生の授業をサボったことは、ただの一度だってない。
熱でぶったおれそうなときだって出たくらいなんだから。

「じゃあね」
「先生」

先生はいつもと同じ笑顔で振り返る。

でも俺は覚えてる。
あんなにも甘い目で、とろける声で触れてきてくれたこと。
あれが現実だって、夢なんかじゃないって、さすがにもうわかったよ。

「先生が好きなオトコノコってさ、もしかして、俺なの?」

俺だよね?
俺のことだよね?

誰でも彼でもあんなふうに見つめたり囁いたり、できるもんじゃないよね?

「…そうだなぁ。放課後にまたここに来てくれたんなら、そのときに教えてあげる」

まるでいつもの軽口。
それだけ残して、屋上のドアが閉まった。

次この場所に来たとき。
次この場所でふたりになったとき。

俺と先生はどうなるんだろうか。
先生にとって俺は、ただの生徒ではなくなるんだろうか。

期待はとめられない。
でもまだ少しだけこわい。
でもやっぱり、期待してしまう。



「先生、好き」



(どうか返事のない告白はこれで最後になりますように)



END
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