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□壊してあげるよ
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「痛っ!」

チリリ、と、熱さに似た痛みが耳に走る。
四つん這いのままで首だけで振り向けば、いつの間にか彼はするりと俺に覆いかぶさっていた。
噛まれたんだ、と気付いたのは、彼が下唇を舐めているのが薄暗い部屋の中でも見えたから。
彼が下唇を舐めるときはいつだって、えっちな何かを味わったときなのだ。

「もう、こんな目立つとこに噛み付かないでよ」
「どうせ髪で隠れるだろ?」

俺は怒ったのに、横山くんはにこにこ上機嫌。
だからって俺はほだされたりしない。
噛まれた耳はしっかり手で覆って、これ以上被害がないように心がける。

「いや、びみょーだし」
「じゃあ見せちゃえ」
「バカじゃないの」

角度によってちらちら見えてしまう耳元。
人目につかない場所なんてほかにいくらでもあるのにどうしてこうリスキーなことをするのか、俺にはまったく理解できない。

「宮っち、手ぇどけて」
「やだ。退けたら横山くんまた噛むじゃん」
「もう噛まないよ〜」

ふふふ、と笑いながら甘えるように首元に摺り寄ってくる。
髪がふぁさふぁさチクチク、刺さったりくすぐったりで背筋がふわってなる。

「…噛まない?」
「噛まないよ」

ほだされてなんかやるものかと思ったところで、いまみたく撫でるみたいな優しい声で囁かれば、結局俺はもう従うしかない。
促されるまま手を退ければ、空いた耳元にまた彼が顔を寄せる。

「横山くん」
「噛まないって」

耳に彼の唇が当たって、そのことに体が震えた。
頭から足の先までぜんぶ彼に征服されているみたい。

「ん、やぁ」
「ん…っ」

舐められ、た。

噛まれなかったけど、代わりに耳の中を舐められてしまった。
くちゅって、いやらしい音をさせながら。

「やだ、きたない」
「ん、ごめん」
「ちが、俺のが汚っ…ぅ、は、やだ」

体や尻ん中は洗っても、耳の中まではさすがに自信がない。
もしヘンなものが入ってて、そんでそのヘンなものを横山くんが飲み込んで横山くんがへんなことになっちゃったら、そうしたら俺どうしたらいいの。

「気持ちいい…」
「やぁっ…」

やだやだ、横山くんやめて、って何度も言ったのに、彼は聞き入れてくれない。
うん、うん、って頷きながら跡が残らないように耳を甘噛みしたり耳の奥まで舐めようとしたり。
この熱さだけで、呼吸を感じるだけで、俺はもうダメだってのに。

「宮っち、気持ち良さそう…」
「ひゃ、あ、ああ!」

お尻ん中に入ったままだった指が一本増えて、久しぶりにぐるりって壁をこすった。
耳元の舌なんかよりずっと大きな音で、ぐちゅぐちゅごぷって、ローションの溢れる音がする。
どこもかしこも良すぎて体がとろけてしまいそう。

「あ、も、やだ…」
「なんで?」
「頭、ヘンなる…」
「…なってよ。なって、クダサイ」

いつも俺ばっかヘンになってるからさ。

って、横山くんが俺の耳元で呟いた。

(ヘンになった横山くんなんか見たことねぇし)

「な。もう挿れていい?」
「うぁ、は…あ…」

お尻の中から指が抜かれる。
ずるりと抜かれただけなのに快感が生まれて体がぶるりと震えた。

足りない、足りないって。
早く埋めてって欲望でヘンになりそうだ。

「横山くん、…キテ」

俺はほんとにただの地味メンだから、せめておねだりくらいはもっとかわいくできればいいのに、かわいい声も出せなけりゃうまく甘えることもできない。

つまんない、そっけない誘い文句。
自分でもちょっと呆れるくらいなのに、それでも横山くんは俺に応えてくれる。

俺のお尻を掴んでぐちょぐちょで貪欲な穴をじっと見つめる。見つめられている。
横山くんを確認しなくたってわかるほどに視線を感じて、興奮してしまう。

「はぁ、いじわる…」
「ひくひく動いてる」
「や、もうやだ」

そんなところ見ないでほしい。
汚くてガマンがきかなくて、浅ましい。

(嫌われたくないんだよ、ばか)

「かわいいね、宮っち」
「うそつきっ、アッ、は…」

くぼみにあてられた熱。
それがローションと彼の先走りのおかげで、彼しか知らない秘密の場所へ入り込んでくる。

(熱い…、今日ゴムしてないんだ…)

女の子じゃないから危険日とかはないけれど俺たちのエッチはゴム有のことのほうが多い。
それは後処理なんかを考える彼なりの配慮なんだろうけれど、俺はナマでヤるほうが好き。
横山くんの熱がダイレクトに伝わってくるから、こっちのほうが好き。

(しあわせだ)

「熱い…」

うわごとみたいな小さな声で横山くんがぼんやり零す。

たしかに、熱い。

わざとゆっくり入ってくる熱が、頭の先までしびれさせていく。
それがすごく快感で、触ってもないのに自身がびくびく震えているのがわかる。
バックだからきっと横山くんには見えてないだろうけれど。

「みやっち…」

また彼が俺の上にかぶさってきて、肌にあたる吐息を感じた。
背中がじんわりとあったかくて、それにすら敏感に反応してしまう。

顔は見えなくても、熱だけでこんなにも彼を感じる。
しあわせで、満たされてて。これ以上なんてきっとない。

「あ、よこやま、くん…」

うごくよ、って宣言されてからゆっくりと体が動き出す。
熱くてカタイものがゆっくり出て行って、また奥へ入ってくる。
それだけでぞくぞくと体が震える。
横山くんの「はぁ」って声が聞こえるから、なおさら。

何回シたって、慣れることはない。

腰に片腕を回されて逃げ場をふさがれる。
密着した俺たちは大きくは動けなくなって、今度は小刻みに腰が揺らいだ。
ぐちゅぐぷって水音も、それに合わせて早くなる。

「よこや、ま、くん、あ、はっ、は、あっ」

「ん、ん、きもちぃ…」

「こわれ、る」

きちんと爪の切られた手がしっかりと俺の腰を掴んで、ぱんぱんとチープな音を立てる。
それでも俺は、感じられる彼をひとかけらも取りこぼさないように必死で真剣だ。

「壊れて」

俺の零れ出た本音を、彼が拾う。

「だ、め」

壊れそうだけど、壊してほしいわけじゃない。

へんになって、壊れて。
壊れたらきっと、欲望のまま貪欲に求めてしまう。
そしたらきっと、横山ひくし。

横山くんが動くたびにベッドのきしむ音がする。
きしむ音がするたびに、奥に熱がぶつけられる。

それが気持ちよくって仕方ない。

「壊れて、みやっち。壊して、いい?」

壊れたくなんてないのに、聞こえた懇願の声にうっかりなにもかもさらけ出してしまいそう。

「や、やだ、ふあああっ」

肩をつかまれるとそのままぐるりとひっくり返された。
そのとき彼が内側をハジメテの角度で抉るから、俺は一度も触れられていないままイッてしまった。

いくら照明が暗いからって、これだけ長い間を過ごせば目だって慣れる。
イく瞬間は見られていないかもしれないけれど、全裸で正常位の体勢なら真っ白に染まったお腹が丸見えだ。
ナニが起こったのかなんて、一目瞭然。

(さいあくだ)

恥ずかしさに顔を隠したいのに、両手首を彼に押さえ込まれているからそれすら出来ない。
顔を背けたところできっと見えてしまうからそれも意味がない。
逃げ場はないと知りながらも、横山くんの目を見ることはできなかった。

「みやっち」
「うああ、ご、ごめんなさい」
「壊してあげる」

横山くんは体を繋げたまま動くから、イッた直後で敏感な俺の体はまたぴくりと反応してしまう。

「ちょ、やめてよ!」

片腕の拘束を解かれたかと思ったら、横尾くんは腹に放たれた白濁を指ですくうと、目を閉じて指ごと舐めとった。
ぷちゅ、と音を立てて指が離れたと思ったら、濡れた舌が下唇を舐める。
ゆっくり開いた目にさえ色気を感じて、俺の体から力という力はすべて抜け出てしまった。

もう、逃げられない。

「こわがんなくっていいから」
「はぁ?意味わかんない」
「俺が、壊してあげる」

唾液のついた指が白濁を掠め取りながら肌を滑っていく。
そのまま胸に辿り着くと、頂をきゅっと強くつまんだ。

いつもと違う愛撫に、ドキドキが止まらない。
口答えすら出てこない。

「よこやま、くん」

自由になっている右手を伸ばしたら、彼の体が近付いてきた。
そのたびに彼の熱が奥へと深く入り込んでくる。

いつもならされるがままだった俺なのに、なぜだか今日は彼の体に足を絡ませる。
近付いた彼の首に腕を回したら、自然とふたりの唇が重なった。
俺はふしだらに、彼の腹にまた熱くなり始めた熱を押し付ける。
彼はそれに答えるように俺の足を持ち、俺の熱にこすりつけながら自分も動いて、俺の最奥を何度も攻めた。
何度も、何度も。

(こわ、れる)

いつもより激しく揺さぶられる体といつもより険しい彼の表情に、それを確信した。









「宮っち」

やわらかい暖房のなかですっかり汗だくの俺の前髪を、横山くんがそっと払いのける。
顔にさっきまでの険しさはなくて、最高に甘く蕩けている。

「ん?」
「…壊れちゃった?」

うつぶせに寝そべる横山くんが、俺の頬を撫でながら困ったように笑う。

「誰かさんのせいで」

わざと拗ねて見せればそっと顔は近づけられ、唇に触れられた。
甘く唇を噛まれて、くちゅ、ちゅぷ、って音がする。
気持ちよさに目を閉じて、俺も彼の背中に手を回した。

「でも、うれしい」
「え」
「さっきのみやっち、すっごいかわいかったし」
「…いや、もうあのほんと、忘れてください」

あんな醜態のどこを見ればそんなに顔を崩せるのか。
どうにか忘れてくれとお願いしたのに横山くんは許してくれない。
鼻先にちゅっとキスすると、しまりのない顔のまま俺を抱きしめた。

「やだ。いつも俺ばっか必死とか、カッコつかないでしょ」
「横山くんが必死なとこなんて知らないよ」
「ベッドの上はいつも必死ですよ」

苦笑いを零す彼は俺の手をとり、そして抱き合う俺たちの胸の隙間へその手をさそう。
わずかな隙間で感じたのは、彼の肌のぬくもりと、少し早めの鼓動の音。

(やばい、またほだされそう)

「いっそ横山くんもぶっ壊れちゃえばいいのに」
「毎回みやっちのかわいい姿見て壊れてます」
「どこが。まだまだ足りない」

人のお尻見たり、あ、あとよく体舐められるしたまに足先とかまでキスされたり。
ちょっとばかり変態だとは思うけど“壊れてる”ってのとはなんか違う気がする。
俺が言う“壊れる”ってのは、理性がカケラもなくなっちゃうってことだし。

(そんな横山くんは、見たことない)

たったひとつの言葉だけど、捕らえ方は人それぞれ。
俺は横山くんに壊されちゃったけど、横山くんが壊れたところを俺は知らない。

(それともこれってタチとネコの違いなのかな)

「じゃあさ、みやっちが俺のこと壊してくれればいいんじゃない?」
「……」
「あれ?だめ?」

うはは、と大きな口を開けて笑う姿は、まるで子どもみたい。
こういう表情だって大好きだけど、さっき初めて見た野獣みたいな鋭さも大好き。

もっと、もっと見てみたい。

「横山くん」
「なにー」
「次は俺が、壊してあげるよ」

きみのすべてを、僕に見せて。



END

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