BL

□不機嫌な恋人
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***不機嫌な恋人



(…眠そう)

授業中、窓際の席の彼の様子を盗み見る。
眉間のしわ、半開きの目。
いつもと同じ、怒っているような、イラついているような、そんな表情。
だけどあれはたぶんただ単に眠いだけ、だと思う。

窓が少し開いていて、カーテンがなびく。
そのたびきらきら入り込む光が、茶色い髪を縁取るみたいに輝かせる。

きれいだ。

ちょっと低めな鼻も、いますごく調子がいい肌も、厚そうに見えて薄い唇も、まつげの一本一本まで。
声も好きだけど、見た目も好き。

(あ、あくびした)

俺のほかにも何人か、授業そっちのけで彼を見ている生徒がいた。
寺西くんのファンクラブの子たちだ。
あいつも、あいつも、見覚えがある。

僕の恋人はあいかわらず、人気者である。






三時間目が終わるとすぐに姿を消して、そのまま帰ってこなかった。
一応五時間目まで待ってみたけど、結局ムダ。
こんなことなら俺もとっととフケるんだった。

六時間目が始まる前に、寺西くんと自分の荷物をまとめて教室を出た。
どこ行くんだよって友人に聞かれたから、内緒って返してあげた。
行き先なんて知っているくせに。本当に彼は意地がわるい。

鞄ふたつ持って廊下を歩いても、先生たちはなんにも言わない。
生徒会と風紀委員は授業に出なくてもいいっていう便利な制度があるもんだからね。
テストの点数とって、委員会の仕事をまともにしていたら、それだけで進級できるらしい。
意味わかんねぇけど超便利だからしっかり活用させていただく。

「てっらにっしく〜ん!」

風紀委員室のドアを開けると、やっぱり定位置に彼がいた。
ほかのよりもちょっとだけ豪華な机、風紀委員長、彼の席に。

「うーるーせー」

イスの背もたれにもたれたまま、左目をぴくぴくさせて俺を睨みつける。
たばこ吸いながらこわい顔はしてるけどこわくはないんだよね。
だって俺、恋人だし!愛しちゃってるし愛されちゃってるし!

「なーに、体調不良?」
「酒が残った」
「二日酔いのままタバコ吸うとかマジ最低な風紀委員長だね!」
「だから声でけぇっつの…」

あんまりにおかしくて大笑いしたら今度は頭を抱えて机に突っ伏した。
あぁ、これはどうやら重症みたい。

「だから授業抜けたんだ」

冷蔵庫を開けて彼の隣にキャべジンを置く。
てゆーか学校の冷蔵庫にキャべジン常備ってどうなのそれ。
一昨日まではジュースとスイーツしか入ってなかったと思うんだけど!

「…」
「昼飯一緒に食おうと思ってたのに」
「…」

すぐそばの俺の席に腰を下ろす。
俺はずっと寺西くんを見てるのに、寺西くんは机と見つめあったままちらりともこちらを見ようとしない。

「寺西くんいないから久々に親衛隊長と飯食ったよ。でも今日すげぇ機嫌悪かったからちょっとめんどくさかった」
「…」
「聞いてる?」
「…」
「もしかして妬いちゃった?」
「…お前さっきから…」
「…」
「なに嬉しそうな顔してんだよ、ボケ」
「だってやっとコッチ見た〜」

イライラした表情であっても、どうせいっしょにいるなら顔見たいし、見てほしいし。
イスに座ったままキャスターで転がって、寺西くんのすぐ目の前にいく。

「お前、なにがしたいの」
「酒くさくない寺西くんとキス」
「…あっそ」

襟つかまれてひきよせられたら、一週間ぶりにキスしてくれた。
重なった唇はやっぱり薄くて、弾力がなくて物足りない。
でもこれでこそ寺西くんだから、これがいい。どんなにふわふわでやわらかくてかさつきがゼロの唇だって、寺西くんでないのならなんの意味もないし。

「ふふっ」
「酒くさくはねぇだろ」
「キャベジンくさい」
「あーもうお前マジでうざい、とっととかーえれっ」

肩パンされたらキャスターのせいで、あれよあれよと離れてしまった。
あぁもうまったくもって機嫌が悪い。

生徒会長の山下くんと、副会長の大原くん。
それから体育委員長の城田くんと、同じクラスの前園くん。あと風紀委員一年の薮。

それ以外の人の前では機嫌が悪い。
恋人の俺の前でも機嫌が悪い。

それでも親衛隊の子らとは違う。
会話が出来て、キス出来て、セックス出来て。

友だちとも違う、キスするのは俺だけ、セックスするのは俺だけ。

「ははは、俺マジ寺西くんに愛されてるね!」
「…どの流れでそうなった…」






END

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