BL

□ごめんね、ずるくて
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「んっ、ふっ、ふっ」

僕が動くたび、彼は息を漏らす。

口に布を巻いたのは今日が初めて。
顔を真っ赤にしながら涙を流し、口を塞がれている。
そんな彼の姿には興奮するけど、声が聞けないのは残念かも。

草野くんの両足をぐいと持ち上げて、僕は彼の中をさらに犯す。

「ふぅあ―…っ!!」

彼の上半身が大きくのけぞり、そしてまた深くベッドに沈む。
どこか子どもみたいだ、と思いつつ、彼の成長しきった体の美しさに僕は酔いしれた。

一度は逸れた視線がまた僕に戻ってきた。
それだけで心臓がドキリとして、それが結合部へ伝わっていく。
いままでたくさん女の子を抱いてきたけど、やっぱり彼はなにかが違う。

草野くんが好きでたまらない。
もっといじめたくなるし、デレデレに甘やかしたくもなる。

これが好きというものなのだろうか。

きらきらと可愛らしく涙しながら、シーツを握り締めていた手が僕のほうへ伸びてくる。
両足をつかむ僕の手にそっと触れ、喋れない口で“菊地くん”と、名前を呼んだ。

(あぁもう、最高にかわいい)

「…なに?」

訊ねるのはもちろんいじわる。

それにしても、いつもは喘いでいるだけなのに名前を呼ぶなんて珍しい。
少しセックスにも慣れてきたのかな。

僕は笑って彼に答えた。
けれど草野くんはそれ以上なにも言わなかった。

まぁ、僕が動くのをやめなかったから、なにかを言う余裕がなかったんだろうけど。

しばらくして、僕らは射精した。
僕はゴムの中に、彼は自分の腹の上に。
彼は女の子じゃないから妊娠する心配はないけど、性病とか怖いからでも、最近彼とナマでセックスしたいって思う。

(僕、そんなに彼のこと好きなのかなぁ。それとももっと気持ちよくなりたいだけなのかなぁ)

「あ…」

自分や彼のペニスを拭いていたりしていたせいで忘れていた。
布、まきっぱなしだ。

彼が自分でやればいいんだけど、セックス直後はいつも疲れきって体を丸めているから、たぶんそんな余裕もないんだろう。
僕は急いで口に巻いていた布をはずした。布は唾液で濡れていた。
布をとった瞬間の草野くんはとても色っぽかった。

「…ありが、と…」
「声、久々に聞いた気がする」
「布まいたの、菊地くんじゃない」

彼は困ったように笑う。
「あぁ、そうだね。楽しいかと思ってさ」と僕は正直に言った。
彼の表情は困ったようなままだった。真面目な草野くんらしい。

何気なく彼の髪をそっと撫でると、彼はじっとこちらを見た。
なぜだかわからないけど、僕は微笑んだ。

「ちょっと待ってて」

僕は彼の頭を撫でるのをやめ、ベッドから降りる。
バスルームでタオルをお湯に濡らし、適度に絞って、それを彼のもとへ持っていく。
そして彼の体を拭いた。

「ん…」

セックスの時とは違う、男らしい声が漏れる。
これはこれできれいだ、なんて思いながら、自分が触れた箇所を思い出してゆっくり彼の体を拭いた。

相手が女の子だったら抱きかかえて風呂場へ行くんだけど、彼を抱きかかえるほど、いまの僕には体力が残っていない。だからこうして彼の体を拭く。

いくら冬だと言っても、汗をかいたままだと体によくない。

「ありがと」
「いいえ。風邪ひかれたら困る」
「…ありがと」

真面目な彼はかわいい。思わず顔がほころんでしまう。「君が、好きだよ」と言って涙のあとを手でなぞる。彼はまったく信じずに「そう」と軽く流す。
僕はたしかに女たらしだけど、男は彼しか知らないのにな。

「僕は、君のこと」

それだけ言わせて、僕は手で彼の口を塞いだ。この続きの言葉は、知っている。
いい言葉じゃないということを、僕は知っている。

「…眠ろう、明日も早い」

彼は僕をじっと見つめた。僕の手を口から離し、おやすみ、と呟いて僕に背を向けた。

(ごめんね、ずるくて)




END

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