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□君が僕を束縛するから僕はすべてから解放される
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引きずり込まれるみたいに落ちていく。
どこへなのかどこまでなのか、知らないし知れないし知りたくもない。

助けてほしくて、閉じていた目を開けて手を伸ばして名前を呼んだ。

「悟っ」

伸ばした手を握られ、首の後ろへ導かれた。
そのまま首につかまって引き寄せたら、口を塞がれた。ぐぬり、と案外肉厚な舌が乱暴に入ってきて喉を埋める。慣れた唾液の味が口いっぱいに広がって、それだけでびくびくちんこが震えた。

「ぷはっ」
「やべ」

ようやくキスが終わって体が空気を取り入れる。
息が出来ない苦しさも好きだけど、酸素が頭にのぼってスッキリする感覚も好き。
汗の匂いも精液の匂いもローションの匂いも悟の体臭も、ローションなのか精液なのか唾液なのかわかんない下品な水音も、ベッドがギシギシ軋む泣き声も、どれも、どれも、悟とエッチしている証拠だから余計に好き。

「気持ちいい?」
「すげぇいい。よくない?」
「いい。悟のちんこがでかくてびくびくして超やばい」
「なんか今日、サービスいいな」
「とくべつ」

体がぶつかり合うたび体がズキズキ痛むけどそれすら愛しい。だって苦しいうちは、痛いうちは、恐怖もない。
それを与えてくれるのが悟ならなおさら、こんなに嬉しいことはない。
足をへんな形に持ち上げられて本来そうすべきではない場所にムリヤリねじ込まれる。
体を繋げてもう何年も経つけれどこの体勢への違和感は消えない。腰が振られるたびに体は悲鳴をあげる。
けれどそれ以上に快感が体中をかけのぼる。
慣れたけど、気持ちいいけど、たぶんそれは俺の頭がおかしくなっただけ。心や体の根っこにはきっと違和感と憤りが隠れている。
それでもこうして体を繋げる。
涼しい部屋なのに悟の額から汗がつーっと流れ落ちるのを薄目に見る。
痛いのか苦しいのか気持ちいいのか、眉間にシワが寄っていていつもよりさらに怖い顔をしている。余裕はないのか口を開けたまま肩で息をして。
悟の必死な姿と、普段じゃありえない衝撃と快感に頭がどんどんおかしくなって、もっと、もっとって求めてしまう。
さらにはそれを悟が甘く享受するから、世界はふたりきりの至極幸せな瞬間で溢れていく。

「ごめん、もうヤバイかも」
「ナカ、ナカ出して」

証が欲しい。
この幸せは夢幻ではないのだと。
証っていったって、結婚とか子どもとか、世の女の子たちが望む約束なんてものには興味がない。
結婚したって離婚することもあるし、子どもが出来たって一生そばにいてくれる保障はないし。
そんな遠い未来の口約束より、いまこの瞬間一緒にいたっていう、愛されているという証が欲しい。
精液でもキスマでも精液でも構わない。なんならぜんぶ欲しいくらい。
幸せだから、さらに貪欲になってしまう。ぜんぶ、ぜんぶが欲しい。

「大樹」

振り絞るみたいに名前を呼ばれたとき、いっそう強く腰を打ち付けられた。
ギリギリまで出て奥まで突き抜かれたような衝撃。そのとき、ナカでなにかが飛び散った気がした。
熱いのか冷たいのかわからないけれど、自分のナカを自分じゃないモノが満たしていく。

俺の体で気持ちよくなってくれた。
ナカ出ししてって俺の願いを叶えてくれた。
普段ではまぁ現れないへりくだった殊勝な考えに泣きそうになる。

「お前も限界?」

ずるり、とナカから出て行ったと思ったら、剥き出しの敏感な場所をぎゅっと握られた。

「ふ…あっ…」

ただ単調に扱かれるだけでも先からビュクビュク先走りが流れ出る。
それだけでも十分なのに、ぬるりと口にふくまれる感覚がした。
視線を天井から彼へ移すと、目を閉じて真剣に俺のちんこを舐めている。
滅多に見られない姿にドキッとして彼の頭に手を伸ばした。地肌がじんわり湿っていて熱い。そのことにすら興奮して、自然と腰を振っていた。

「はぁ、あっ、…ごめん、イク…」

はしたなく開いた足の間にある頭をぎゅっと押し付けて、熱い咥内に射精した。
ビクビク震える間も頭は離してやれない。最後の最後までジュルジュル音を立てて吸われたから、嫌がられてはいないはず。

「は…あ…、ありがと…」

落ち着きを取り戻してようやく手を離してあげられた。
そうしたら突然、腹の上にべちゃべちゃなにかが降ってきた。それはもちろん、俺がたったいま口の中に出した精液だ。
そのあとゴクリと飲む音がした。

「…ティッシュ渡すまでガマンしろよ」

「大樹の体の上に出したかったんだよ」

ぬるり、吐き出された精液が腹の上に広げられる。
一刻も早くシャワーを浴びないと腹の上がカピカピに乾いてしまいそう。
いちゃいちゃしたかったのになぁとため息をついたら、悟が困ったように笑った。

「そんなにイヤだった?」
「こーゆーことする意味がわかんない」
「ナカは俺でいっぱいだから、外は大樹のザーメンまみれにしようと思って」
「…変態」

どうしてそんな考えに至るのか意味がわからない。
たしかに、悟にはときどきこういうときがある。慣れてきたとはいえ、突拍子もない言動に呆れてしまうこともまだ多くって。

「本当にイヤならもうしない。ごめんな」
「…別に、大樹が変態ってのは知ってるから」

小さな子どもが母親に甘えるみたいに首元に頭を寄せて抱きついてきた。
じんわりかいた汗の匂いが鼻をくすぐる。もっと嗅ぎたいと思う俺もたいがい変態だ。もちろん、そんなふうに思うのは悟の匂い限定だけど。

「大樹」
「ん…」

ちゅっと首にキスされる。面倒だから、こんな目立つ場所に跡は残さない。
だから首にキスするときは跡が残らないように軽くするだけ。あ、あとよく舐められもする。悟も俺の汗は嫌いじゃないらしい。

「かわいい」
「もっとシて」
「いいよ」

鳥肌が出るようなうわずった声でおねだりすれば、いろんな場所にキスしてくれる。
かわいこぶるのはあんまり得意じゃなかったけれど、すぐにご褒美をくれるってわかってからはこうして素直にねだることが増えた。

昔はこんなふうに、甘えたり甘やかされたりする関係じゃなかったんだけどな。
エッチしたらすぐにシャワー浴びて、タバコ吸ってテレビ見て、まるで友達の延長みたいな関係だった。
当時はそれに不満もなかったし良いと思っていた。

変わったのはいつからだっただろう。気づけばいまみたいになっていた。
いまはもう、あの頃には戻れない。そんな関係には耐えられない。
バカみたいに甘えてバカみたいに甘やかされて、ふたりきりのバカップルな世界が心地良いし、そこからひとりさきに抜け出されようものならばきっと俺は泣いてしまうだろう。
俺の手を掴んでいてくれなくちゃ、俺はどこまでも落ちていってしまう。
意識や苦悩や後悔なんかの奥深くに。

両手で悟の体を抱きしめて、髪の中に鼻を埋める。
見て、触れて、嗅いで、聞いて、悟がくれる熱に溺れる。

「乳首、たってんだけど」
「誰かさんがいじるからだろ」
「こっちはいじってなかったけど」
「ん…はぁ…」

また触れられるから、腰を揺らしてしまう。

目の前に広がるのはちかちか輝く愛しさで、この腕の中がキモチイイからそればかり求めてしまう。

「またイッちゃう?」
「まだ、ムリぃ…」
「すっげぇ腰揺れてるけど。ほら、俺全然手ぇ動かしてないよ?大樹がオレの手つかってオナってるだけじゃん」
「あ、ん、…いじわる」
「こんなに甘やかしてんのに、まだいじわる?」
「やだ、もっと、もっと甘やかして。ずっと、抱いてて」
「…いーよ」

フェラしたあとはキスしない俺たち。唇の代わりに乳首にしゃぶりついてきた。

「はぁ、あ、…きもちいい」

わざとやらしい音を立てて吸い付くさまはまるで、欲にまみれた雄そのものだ。
そっとちんこに添えられていただけの手もいつのまにか上下に激しく律動を開始し簡単に俺を絶頂へ導いていく。

「イく…、イく…っ」

能無しの俺はまた悟の頭を自分に押し付けて、今日二回目の射精をした。こんなハイペースで二回もイッちゃうなんて、俺もまだまだ若いってことだね。

「結構出てんな。若い証拠?」

精液のついた手をぺろりと舐めてニヤニヤ笑われる。

「俺もおんなじこと考えてた」

近くで臭うとやっぱり臭い。どうして悟のものは平気で自分のものはダメなんだろうか。
愛?いやいや、そんなロマンチックな答え、ただの常套句にすぎないよね。
それをまっすぐに信じられる幼さは羨ましいけれど。

「俺はまだ一回しかイッてないんだけど?」
「…枯れ…?」
「もう一回挿れていい?」

あいた手が腰に回され体が密着する。
下半身が熱いのは精液のせいかちょっとだけたちあがっている悟のちんこのせいか。

「…いいよ…」
「え、いいの!?」
「なんだよ冗談かよ」
「そうじゃないけど、…どうせ拒否られると思ってたから」

苦く笑う額にキスをする。
確かに、疲れたからヤだとか明日仕事だからヤだとか、わがままを理由に断ることは多い。
今日はナカ出ししたから余計に体に負担だったし。

でも今日は、甘やかしてくれたから。
いつもより不安定な心を悟が救い出してくれたから、エッチで喜んでくれるならお返しにしてあげたいなって思っただけ。

「悟なら、いいよ。悟が俺のこと好きで、はなさないでくれるならそれでいい」

「そんなん当たり前」

俺の重い気持ちなんてなんにも知らずに、うすっぺらい希望を飲み込んでくれた。
嬉しいけれど、すこし切ない。
俺が思っていることはきっと、悟が思っていることよりずっと重い。
ベクトルが違いすぎることはわかっていたはずなのに、改めて突きつけられると切なくなる。

「大樹?なんか落ち込んでる?」
「悟」
「うん」
「ずっと、放さないで」
「うん」

口約束は好きじゃない。そんなものアテになりはしないから。
けれどこの瞬間はウソじゃない。
そんなちいさなことに感動して、嬉しくなってしまう俺はただの馬鹿だ。惚け者だ。

それでもぎゅっと抱きし笑めてくれる優しい強さが、たまらなく愛しかった。



END

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