BL
□火
1ページ/1ページ
熱から解放されてどれだけ時間が経ったのか。
ベッドサイドには明かりがついていて、壁掛け時計が午前四時を示しているのが見えた。
真横で寝ていたはずの幸泰はいつのまにか起きていたらしく、ベッドに腰かけてタバコをくゆらせている。
それでも、全身真っ裸のままだからまだ出ていくわけではないだろう。
夜中に出て行かれたりしたら、俺泣いちゃうよ?
そんな安っぽいドラマいらないもん。
それにしても、ベッドルームでタバコを吸うなんて、珍しい。
ギシ。
体を起こすとベッドがきしんだ。
その音に幸泰は振り返ろうとしたけれど、振り返る前に背中からぎゅっと抱きついたからそれは叶わない。
後ろから抱きしめてくるのはいつだって俺じゃなくて幸泰の方だし、エッチはいつだって向き合うばかりだから、こうして背中に体を預けるのは久しぶりだ。
細くて骨ばってるけど、やわらかな肌が頬にすごく気持ちいい。
「翔ちゃん?どうかした?」
「なんで?」
「いつになくしおらしくね?」
首だけこっちを向いてちらちらと視線が合う。
タバコを持ってないがわの手が俺の頬を撫でた。
ぷにぷにと子どもをあやすみたいなそれはあまり気に入らない。
「タバコ、ちょうだい」
その手を振り払い肩に顎をのせて、タバコを持つ幸泰の指先をなぞる。
子どもじゃねぇもん、大人だもん、ってアピールのつもりよ、これ。
幸泰はそれに気付いてんのか気付いてないのか。
ため息をつきながらもタバコの箱に手を伸ばし一本抜き取った。
それを奪って、幸泰が吸ってるタバコから火をもらう。
布団に灰が落ちないように気をつけなきゃだな。
「子どもの頃さ」
「ん」
「こうして友だちから直接、花火の火、もらったよね」
スーパーやコンビニで売ってる花火セット。
それを友だちで分けて。
はじめの一本はちゃんとろうそくでつけたとしても、次からはまだ火のついてる友だちの花火から火を分けてもらって。
本当は危ないからやっちゃダメって書いてあるけど、そっちの方がラクだし楽しいし、ふたついっぺんに輝く花火はきらきらすごく綺麗だったし。
そんな青春、したこともあったな。
「いーね、今年しよっか?」
「…うん」
別にただなんとなく思い出しただけで花火がしたかったわけじゃないけど、せっかくしてくれるならしようかな。
でもさ、もう子どもじゃなくて大人だからさ。
もっとヤリたいこと、いますぐヤれること、したいんだ。
「幸泰」
「ん?」
「タバコ終わったら、またシない?」
後ろから幸泰の太ももを撫でて、煙と一緒に言葉を吐き出した。
END