BL

□キス
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ミツと出会ったのは高校一年の秋。
俺たちがようやく部活や先輩たちに慣れた頃、突然先輩がまた一人増えた。

北川光明。
いまの俺の恋人。

チビのくせに、途中入部のくせに偉そうで。
熱血漢で夢見がちなのにふとしたときに“年上だ”“大人だ”って見せ付けられる。それが悔しかった。

数年前はそんなふうに思っていた相手が、いまは裸で隣に眠っている。
すやすやと穏やかに静かに肩が上下する。
けれどまだ、情事の匂いが残っているからなんだか可笑しい。
シャワーは浴びたはずなのに、ベッドに匂いが染み付いてしまったのかもしれない。
目に映るのは穏やかな幸せなのに、寝惚け頭が思い出してしまうのは、惹かれてしまうのは、数時間前に起こった快楽。何もかも超越してしまうような、満たされた時間。

背を向ける彼の肩を撫でる。
やわらかい筋肉の感触が気持ちよくて、ふにふにと指の腹で肌を押す。
まさかこんなものに欲情する日が来るとは、あの頃は考えたこともなかった。
初めてキスしたあの日だって、ただなんとなしにふざけて奪っただけだったし。

「ん…」

体を撫でていたら起こしてしまったのか、寝返りを打つみたいに体を捩る。
反転するようこちらを向くと、部屋を淡く照らしていた間接照明に彼の表情を教えられる。
眉間にシワが寄って寝苦しそう。いま起こしたら機嫌を損ねるんだろうな。
あの日みたいに、怒られるかもしれない。

「ん、う…、ふっ…」

そうは思ったけど我慢できなかった。電気を全部消していればよかったかな。
そうすればこの肉厚な唇を目にすることもなかったわけだし。

「も、なんだよ…」

目を覚ました北川が俺の体を押し退けて言う。

「したくなった」
「んだそれ…」
「理由」
「まだ夜だろ?いい加減寝ろよ」
「寝たけど起きた。それに、ミツとのファーストキス思い出しちゃって」
「ファーストキスゥ?どんなオトメだよ」

ふにゃふにゃした顔でいひひとへんな笑い方をする。
一応会話は成り立っているけど、目だってまだ半分くらいしか開いてないしテンションもおかしい。まだ十分寝ぼけているみたい。
思っていたよりずっと機嫌がいいからすごく可愛いけど。

「あぁ、合コンの帰り道でしょ?」
「は?」
「だから、ファーストキス」

ずいっと近くに顔を寄せてキスされた。
でもキスよりも、ずっと近くに寄ってきた体の方が気になってしまう。
お互い裸のままだからいろんな場所が触れ合ってドキドキする。
衝動に駆られて腰を抱けば北川からも近付いてきて局部を押し付けるみたいに擦り寄ってきた。

「違う」
「ん?」
「まだミツが入部してすぐの頃、付き合うずっと前。部室で二人きりになったときキスしたの、覚えてない?」
「高校んとき?」
「気のない人間にこういうことすんなって、俺のことすげぇ怒ったろ。年上ぶってさ」
「ん、ふあ、あー、…気持ちいい」
「な。ちょっとやべーかも」

首に吸い付いて乳首をつまんだら、予想以上に北川の体が跳ねた。
口が半開きで舌がちょっと出てて、もうイッちゃうんじゃないかってくらいにとろけた表情。それに興奮しない恋人はいない。
性器に手を伸ばしたら、熱を持ったそこはじんわり湿っていた。熱い体に誘われるまま扱いてみれば簡単に蜜が溢れてくる。
布団の下でクチュクチュと音が鳴る。小さな音なのに耳につくのは、自分がそれを欲しがっているからか。

北川の両手が俺の肩を掴む。
足さえ絡めて、逃がさないように、逃げられないように拘束される。

「痛ってぇ」
「ん?」
「こすられすぎて痛い。イキたいのに」
「はいはい」

息をあげながら言う北川から手を離す。
眠りにつく前、散々扱いた場所だ。いつまでもそこばかり刺激したなら痛みだって残る。

「彼氏が目の前にいるのにオアズケとかマジ有り得ねぇ〜」
「はいはい、舐めてやっから座れ」
「マジ?」
「なんだよ、やめる?寝ちゃう?」
「とんでもない!ぜひともお願いします!」

へらっと笑う北川の額にはじわりと汗が滲んでいる。
顔を寄せて舐めとると好きな味がした。変態扱いされるから言わないけど。

「さっきまで寝たがってたヤツのテンションじゃねぇよな」
「だってフェラ好きなんだもーん」
「するのがだろ?」
「ごめん、両方。そこだけは譲れない」
「知らねぇよ」

うきうきと肩を弾ませて布団を蹴り飛ばし早々と正座をする。
ムードを求めるつもりはないけれど布団を蹴り飛ばすのはどうなの。

太ももに触れたら閉じていた足がそっと開いていく。
すこし成長した性器から零れた蜜が安っぽくいやらしくきらきら光る。口の中の唾液が零れないように気をつけながら口にふくんだ。

一口目に先走りの味がして、これが結構好き。舐めとったあとはどんどん続きが出てくるように、北川の弱い部分を時折舌で攻めながら頭ごと動かして刺激を与える。

「あー…気持ちいぃ…」

まるで風呂に浸かったおっさんみたいな声を出す。頭にあたってる腹が声といっしょに震えたのが、なんだかおかしかった。
俺の髪をやわらかく掴むこのクセは、好き。

唾液でぬるぬるしている性器がどんどん熱くなっていく。
大きさもふくれてゆくばかりで、こんなときばかりは口が大きくてラッキーだと思う。
口が小さい子は頬張るのもたいへんそうだと昔よくお世話になっていたロリ顔女優のAVを思い出すけれど、口の小さな子が必死になって大きいものを頬張る姿にそそられていたんだっけ。
たとえば、と華奢な女の子を真似てミツの顔を上目遣いで見つめてみるけれど、目つきの悪い自分はどうせ睨んでいるようにしか見えないのだろう。
というかそもそも目ぇつぶってこっち見てねぇよ。
あぁ、でも、顔を赤く染めながら眉をひそめて快感に耐えるその顔はかなりクるものがある。

「はぁ、あ…。…なんて顔してんだよ」

目を開けたミツがえらく取り乱した。
くしゃくしゃの顔には華やかな何かが滲み、口にふくんでいた性器がさらに大きさを増す。

一度口から性器を出してみれば、唾液で濡れた性器はぴくぴくと震えていて限界を訴えているようだった。
根元をきゅっと右手で握りこみ、真っ赤になった唇にキスをする。
濡れて痛みが減っているのか、ゆっくり扱いても快感に体を揺さぶるだけで文句の一つも出てこない。
頼りなく肩を掴まれて、それでも離されることはしないで。

「舐めてくれんじゃねぇの…?」

キスの合間の小さな懇願にはいつもの強がりも理性もない。
鎧でまとった自分を捨てて、生身のままぶつかってきてくれる。そんなかんじ。
そんな恋人の姿が可愛くて、いとおしい。

慰めるつもりで頬をそっと撫で、扱くことを止めないままもう一度フェラチオを再開する。
すでに限界の近い北川の体はあっけなく後ろに倒れこんだ。
壁にごつんと頭をぶつける音がしたけど本人はそれどころではないらしい。

「あっ、あ、あ、あ」

髪を触る手がびくびくと大きく痙攣している。
ほとんど同じタイミングで性器も揺れた。
イク、イク、とうわ言のように繰り返したあと、薄味の精液が咥内に広がった。

ぢゅ、ぢゅ、と音を立てて搾り出すように最後の最後まで吸い取った。
ぷは、と顔をあげれば壁にもたれてぐったりしている北川の姿。
そんな北川の腹辺りを膝をついてまたぎ、満足している顔をそっと片手で引き寄せる。

「なぁ、俺のも舐めろよ」

目の前に性器を持っていったら、薄い上唇と肉厚な下唇がゆっくり開いてそれをくわえた。
さすがは、するのもされるのも両方好きだって言っていただけある。
すっきりしたんだからさっさと寝ればいいのに、わざわざ付き合ってくれるそのやさしさというか本能というかに呆れもするけれど、していただく身としては非常にありがたい。

顔を動かすというよりはねっとり丁寧に口の中で舐めあげられる。
強くはない、執拗な慰めに背中がひやりと冷たくなる。
快感、というよりは焦らされているかんじ。

「ミツ…」

名前を呼んだらまんまるの目がこちらを向いた。
俺なんかよりはきっとかわいい部類の、それでもしっかりとした男の強くて捉えてくるような眼差しに、負けじと加虐心が生まれてくる。
促すだけだった手でしっかりと彼の頭を掴み、性器を根元まで彼の口の中に押し込んだ。繋がっているときみたいに、乱暴に腰を振る。
倒れてしまわないように俺の腰に手を回す北川を追い詰めていくような感覚。

すでに限界の近かった体は、情けない涙声とともに、北川の口の中に精液を流していった。
体を引けばずるりと小さなそれが出てきた。ふにゃふにゃと力の失ったそれは本当に俺自身で。

「博史の、薄っ」

ベッドサイドのティッシュを手にとり、ぺっぺと精液を吐き出した。

「んだよ、飲めよ」
「やだよ。薄いのまじぃ」
「濃いほうがまずいだろ」
「まずいんだけどさぁ、あれはなんていうかクセになるんだよね」

これに関してはいつも意見がかみ合わない。俺は濃い精液なんて飲みたくないし。いやそもそも飲みたくないんだけどな。濃かろうが薄かろうが。精液まずいし。

けれど結局、よくやってしまうのもさせてしまうのも、きっと彼の感じる顔が好きだからで。

「…あぁ、俺お前の唇フェチなのかも」
「は?」
「高校の頃にキスしたって言っただろ?あれもさ、お前の唇から目が離せなかったからで」
「ほう」
「フェラされると感じるのも、そうなのかなって」
「えらくまた話がぶっとんだな」

機嫌よくひゃひゃひゃと笑う姿に、初めてキスした頃の鋭さや幼さや繊細は見えないけれど、ほらやっぱり、唇の形は変わらない。

「ミツ」
「はいよ」
「キスしていい?」
「はいはい、どうぞどうぞ」

ん、と突き出された唇はやっぱり魅力的で、弾力を楽しむようにゆっくり近付いてキスをした。




END

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