夜が朝に染まるまで
□きなこ味@
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12月
「もうすぐ、明けますね」
ふとそう言った。
2人きりの部屋に、その声がやけに響く。
累の表情は見えない。
けれどどこか、晴れ晴れしい。
「行きましょね。ロンドン」
「…」
返事はしなかった。
一緒に行ける保証なんてどこにもないから。
累はきっと、選ばれるだろう。
彼女は世界にも認められてるから。
けれども、私は多分そうじゃなくて。
もちろん自信がないわけじゃない。
去年も一昨年も、代表で戦って得られたものの中にちゃんと自信も入ってる。
なんとなく、コンプレックスなんだと思う。
替えの効く私と、累とでは、住む世界が違うから。
だったら努力すればいいし、隣に並べなくても、支えになれるように頑張ればいいだけの話。
そんなことは、分かってるんだけど。
どうしても隣に並びたい。
背中を追い続けてる。
「きっとキラさんも戻ってきます」
そんな私の気持ちなんて、累に分かるわけない。
そんなことは分かってるし、それなりの優しさをくれる累に甘えて、八つ当たりするのが間違ってることも分かってる。
だから私は、そうだね、と笑った。
「ユメさん」
「ん?」
罅割れた花瓶を抱くように、累が私を抱き寄せる。
「る…累?」
「心配しなくても、今の代表にはユメさんが必要だから。そんな顔しないでください」
累の金髪が鼻先を掠めた。
今にも泣き出しそうな累の頬を撫でて、そんな顔で言われたくない、と笑う。
それでも泣き出しそうな累が可愛くて、思わず頭をぐしゃぐしゃに撫で回した。
「な、なにすんですかっ」
「明けましておめでとう。今年もよろしくね」
時計の針は、12時を指していた。