第五章【奴が来た(下)】
□第十九話【ベッドはちゃんと使いましょう】
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チュンチュン――――――
『すー...(まだ、寝てても...いいよね。)』
吉良は、寝てはいるが意識だけは覚醒していた。
明らかに布団から出る気はないようだ。
するとふと、一つの違和感を覚える
『(あれ?...なんか暖かいんだけど、暑いって感じじゃないな...)』
吉良は、ゆっくりと目を開けると暖かさを感じる方へ身体をゆっくりと動かす
そこには―――――――
『...なんで丁くんが私の布団にいるのよ』
丁が丸まって寝ていた。
どうやら、服を掴んでいたようで吉良が動いたことでその手が離れた様だ
丁が、すうとゆっくり瞼を開けていく。
「んあ...おはようございます。吉良」
『...うん、おはよう。』
「...今日は何かありましたっけ?」
『あるけど、その前になんで丁くんが私の布団の中で寝てるの?』
丁はそう言われると、辺りを見回す。
そして吉良の顔を見て、小首を傾げた
「何故でしょうか?」
『いや、私に聞かれても分かんないよ?』
吉良は苦笑する。
案外この子も、抜けてるところがあるもんだねー
『もー...ベッド買った意味ないじゃん。』
「...すみません。もしかすると、寝ぼけて移動してしまったのかもしれません」
『記憶ないの?』
「...少し、だけあります」
(あるんかいっ!!)
思わず吉良は突っ込みそうになったが、喉まででかかった言葉を飲み込む
「...確か明け八つ辺りに、目を覚まし少し寒かったので..再び布団の中へ潜り、そこから覚えていません」
『その後に来たってわけね。』
(とりあえず夜中ってことよね?)
吉良は一人うんうんと頷く。
それを見ていた丁は、不思議そうに見ていた
...ここでの時計の呼び名言ってくれたら、お姉さん助かるなー
教えるか。
『と、とりあえずっ今度からはちゃんと自分のベッドで寝るんだよ?』
(可愛かったけどさ!!!)
「...はい。申し訳ございません、以後気をつけます」
『いや...そこまで、...(いかんいかん!!甘やかしたらあっかん!!)うん、分かってくれたならそれでいいよ』
丁は顔を俯かせる
その姿を例えるならば、子犬が叱られて落ち込んでいる様子そのものであろう
『...よし!!じゃあまずは、顔洗おうね?おいで丁くん』
「あっま、待ってください!!」
吉良はそう言うと、スタスタと脱衣所までの道を歩き出す
丁はと言うと、顔を俯かせていたせいなのか一歩遅れて後ろから追いかけてきていた――――――
二人は顔を洗うと、リビングに来る。
丁はいつもの通り、テレビをつけ天気予報を見る
一方吉良は、キッチンへ行くと徐ろに冷蔵庫を漁り始めていた――――――
『...材料あんまないわね。』
「どうかなさったのですか?」
『あ、ううんーご飯少ないなーって、』
冷蔵庫を漁りながらブツクサ言っていると、丁がキッチンへひょっこりと顔を出す
今回の顔の出し方はかわいいね。うん
「また、前のような【こんびにべんとう】とやらになるのですか?」
『んー...なんかそればっかだと、カロリー高めになっちゃうからね。』
「では、朝餉はどうされるのですか?」
丁がとことこと吉良の元へ来ると、上目遣いでこちらを見小首を傾げてくる
...ごふっ
『そ、そう゛ね...じゃあ、今回は家にある材料で手料理でも作りましょうかねー』
「手料理!!吉良の手料理っ!!?やっと食べられるのですね...っ」
丁は感極まったのか、下唇をぐっと噛み今にも泣きそうな顔をしている
...どんだけ食べたかったの!?
『...言っておくけど、私の料理は【運】だからね?100で例えて70の確率で失敗します』
「高!!」
『...リビングで今しばらく、お待ちくださいませえ...』
「は、はい...」
丁はリビングテーブルに向かうまでの道で、何度も足を止めては不安気な顔で此方を見てくる
ピタッ
「.......」
『........』
はよ行きたまえ。
これから我流のお料理教室が始まるのですからね―――――――――――