第七章【秋の季節は冬の始まり】

□第三十三話【まだまだ暑い残暑さん】
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...夏祭りも終わり、雨も上がった8月下旬。

まだまだムシムシとするが、段々と涼しくなってくる季節頃







〈...んじゃあ、俺もう帰るから〉


「...もう帰ってしまわれるのですか?」

〈あぁ。課題はもう終わってるからいいけど、他にやることあるからな〉


『そっか。...寂しくなっちゃうなーでも、仕方ないか!!』



〈......〉





翔命はのそりのそりと足取りが重たそうな感じで、軽い荷物を持って玄関へと向かう

マンションの外には既に迎えの車が来ている

...翔命くんの世話係のお姉さんだー。いつみても美人さんね






〈...はあ、めんどくせ〉


「??何が面倒なのですか?」

〈なーんでも...車に乗るのが億劫なだけだ。
気にすんな、弟よ〉


「????」


『(はっきり言えばいいのに、帰るのが嫌だって)』





玄関の扉を開けると、既に世話係の美人の人が立って居た
そして、スっと中に入ると翔命の荷物を持ちまた外に出た

...いつの間にいたの!!?さっき下覗いたときは、マンションの外にいたよね!!?






〈じゃあな、丁に吉良。また来年遊びにくっから〉

「はい!!お待ちしておりますっ絶対に遊びに参ってくださいね。兄上!!」

『うん。いつでもおいで?私たちはいつでも大歓迎だからね!!』


〈......うん。んじゃっ〉






翔命はシュタッと手を挙げ、指だけをヒラヒラとさせると踵を返す

一瞬だが、何やら複雑そうな表情をしていた...気がしなくもない
気のせいだろうか?






「......行ってしまわれましたね。」


『そうねー...。』


「今日から布団の幅が広くなってしまうのですね」

『...うん。』






丁はそこまでいうと、口を閉ざす
そっと覗き込んでみれば、唇を噛み締め翔命が去った方を見つめていた

...寂しいんだね。お兄ちゃん居なくなったんだもんね






『...一緒寝る?』


「遠慮致します。」


『ぶー...』


「...ご心配無用ですよ。寂しくなどありませんから」






ふっと目元を細めて丁は笑うと、家の中へと入っていった
しかし、その背中はどこか寂しそうなオーラを醸し出している

...やせ我慢なんかしちゃって。バカだな






『...どいつもこいつも、痩せ我慢ばっかしちゃって、我慢するのが流行ってるんだか。』





リビングに戻ると、丁は花火大会の時に翔命に買ってもらった広辞苑に目を通していた

...そんなもので気が紛れるもんなの?






「......読めない」

『それは氷見鰯(ひみいわし)って言うのよ。』


「...吉良」

『よしよし、...本当二人は大切な事言わないで我慢してるところが似てるよね』



「......私と、兄上がですか?」


『うん。』






丁の後ろから広辞苑を覗き込み、頭を撫でてあげる。
なんで鰯を見ているのかは、謎だが...きっとなんでも良かったのだろう

気が紛れればそれで、






「......そう、でしょうか」


『そうだよ。さっきの翔命くんと言い、今の丁くんと言い...背中から哀愁漂わせすぎ』


「も、申し訳ございません...」

『はいはいそこで謝らない!!...寂しいなら寂しいって言いなさいな』


「寂しくなど...ありません」






此方からでは表情が見えないが、頭を俯かせている限り..明らかに嘘をついていますと言っているようなものだ

...全く、世話の焼ける弟くんだね






「...っ吉良?」


『まあまあ、じっとしてなさい。』


「...はい」






後ろからそっと抱きしめてあげると、まあ予想通りの反応が返ってくる

すると、抱きしめている手に丁の小さな手が重なってくる

...少し震えてる?






「家族とは、こんな感じなのですね」

『うん?』


「...寂しい時に、落ち着かせて下さるのが家族というものなのですね」

『そうだよー。』






重ねられていた丁の手が、ギュッと私の手首付近を握ってくる
だが、私の手首の方がまだ大きいせいか包み込みきれていない

...いだだっ無理やり私の手首全部握ろうとしないで!!あとにぎにぎしないでっ





「.....あたたかい、です」

『ふふっ...生きてるからね。』


「...生きてる。そうですよね..生きてるからですよね」






丁が腕の中でくるりと回り、此方に身体を向けてくる

...ぬあ!!?なんて器用な。

そして、私の腹に思い切り抱きついてきた
そう、思いっきりね






「有難うございます。...ありがとうございます」

『どういたしまして。』





丁はそれだけを言うと、その後は一切喋らずに抱きついたままであった

...身動き取れません















おまけ。




「...申し訳ございません。長く縛り付けてしまって」

『いいよー?なんならもうちょっとだけなら大丈夫よ?』


「あ、いえ兄上とやっていたげえむがまだ途中なので、そちらをします」


『え?...ア、ハイ』








地味に立ち直りの早い丁なのであった。

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