第七章【秋の季節は冬の始まり】

□第三十四話【紅葉が顔に張り付いてきました】
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再び日常が戻った十月下旬の話。
その日は冷たい風が吹き、木の葉も沢山舞っていた
今年は例年よりも冷え込んでいる模様だ


上を見れば赤 黄色 焦げたような茶 色鮮やかな葉っぱたちが木々に必死にしがみついている

人間側から見れば、美しい光景に過ぎないのだが。








「......へっくし」


『風邪引いちゃった?...ごめんね?いきなり外でたいとか言っちゃって』

「いえ...寒いからと中に籠るのも、好きではなかったのでちょうど良かったです」





マフラーに耳あてにダッフルコートと、もはや真冬並みの格好をしている丁。
まあ、着せたのは私なんですけどね...
だって、風邪引いちゃったら元も子もないじゃん!!





『そ、そっか。丁くんがそう言ってくれるなら、よかった』

「ですが、何故また突然外へ出たかったのですか?」


『え?んー...なんで、かな。なんとなく?出なきゃ勿体無いって直感が言ったから?』

「なんて曖昧な...」






はあと一つ丁は溜息を付く
それでも、ちゃんと私の隣に合わせて歩いてくれている彼はきっと、優しいのだろう

ガサガサと落ち葉を踏みしめて途方もなく、何処へ行くこともなく二人で歩く

今は紅葉がたくさん落ちている大通りを歩いている





「...こんなに木々が赤色や黄色に染まっていると、壮観ですね」

『ふふ、そうね。ここは季節ごとに違う花が咲くことで有名なんだよ?知ってた?』


「ほお、例えばどのような花ですか?」






ゆったりとした足取りで私と丁君は木々を眺める
風が吹くたび、紅葉やイチョウがヒラヒラと落ちてくる





『んーっと確か、春が桜で夏がなんだっけ、なんか緑一色になるんだよ。で秋が今で、冬は枯れ木になるよ。』

「ほお、...普通では?」


『うん、でもこんな大通りに沢山の木なんてそうそうにないからね?』

「まあたしかに...」






丁がふむと考えた後、くるりと辺りを見る
どうやら大通りの木々を見ているようだ

木々は綺麗に統一感覚でみっちり植えられている




「私のところでも、このように綺麗に並んではいなかったですね。素晴らしいです」

『ふふっでしょー?それでね、冬の夜になると枯れ木がライトアップされるの』


「らいとあっぷ?」

『うん!!』




丁は首を斜めに向けると、目線を空へ向ける
...分かるはずないとおもうよ、うん





『この木たちがね、光る?のとっても綺麗なんだよ』

「光る?...どのようにですか?」


『うーーーん...いろんな色の光で?』

「見ればわかると言う奴ですね」


『う、うん...そうだね。口でより見たが早いね。うん』






何故か伝わらないのは出会った頃からの名残?
いや、今はちゃんと同じ言葉のはず
では何故伝わらない!!?






「あ、吉良。」

『うん?』


「これから祭りの日に行った、番子?社へ行きませんか?」


『あーいいね!!この季節なら、階段辺りの木も色づいてるだろうね!!』


「では、さっそく行きましょう」







ここの大通りから、番子神社まではかなりの距離がある

徒歩20分ほどだろうか
丘の場所とは正反対のところに大通りは位置する







――――ガサガサッ




「......」

『その遊び楽しい?』


「え?はい。歩きながらなので、暇つぶしに最適ですね」





丁は歩きながら、落ち葉を上に舞うように蹴り上げている
すると、突然強い風が道を行き交う者たちへと襲う





「わっぶ...っ」

『うう...寒っ風が強いよー』


「...ま、前が見えません」


『あはは!!丁くん顔に葉っぱ付いてるよー』






先程の突風で、どうやら丁の顔に紅葉の葉がついてしまったようだ
丁はおろおろと変なダンスを踊りだす

...自分で取れるよね!!?何してるの!?





『な、何してるの?取ってあげよっか?』

「お、お願いします...」




ペリッ

と音を立て、紅葉の葉を丁の顔から引き剥がす
丁は葉が取れると、ぺっぺと何かを吐き出す
おそらく葉に付着していた土が入ってしまったのだろう

...ドンマイ






「...今日はとんだ災難ですね。全く」

『あはは。でも、私は楽しかったよー?いいもん見せてくれた!!』


「......はあ」






丁は思い切り大きな溜息を付く。長く長く

しかし、顔は何故かそこまで呆れたとか疲れたとか等の表情ではなく、どこか笑っている...気がする

...丁くんがまともに笑っているところなんてみたことないな
ん?気のせいか?
いやあったわ。






「...吉良が喜んだのなら、別にもういいです。」

『あはは。よしよしー』


「......」






何気なしに、丁の頭をなでる
喜ぶものかと思ったが...予想が外れる

丁は一瞬此方に視線だけ向けると、ふいっと別の方向を向いてしまった
...不貞腐れた?






『(ありゃ、あっち向いちゃった)...まあ、とりあえず神社行こっか』


「...はい」






二人はかなりペースを落として歩いていた足を、再び通常の足取りへと戻す

まだまだ当分はこのペースだと、神社はつかないだろう













秋は、何をするでもなくただただ景色を楽しむのもまた一興である
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