雑多短文

脈絡はなくとも1日3行だけでも。
無変換夢とnot夢なNLGL小説混在。

只今のお題“color”
casaさんよりお借りしています。
 
◆雲一つないヘヴンリーブルー ジョナサン・ジョースターXエリナ・ペンドルトン 


僕の彼女は心配性だ。
ついでの買い物を終えて大学から帰宅すると、開け放した窓のカーテンが揺れるのもそのままに、エリナがテーブルに肘をついて眠っていた。
ようやく看護学校の定期試験から開放された彼女はぐっすりと眠っていて、僕が帰ってきたことに全く気がつかないでいる。そのまま寝かせておこうか、それとも横になって休んだほうがいいよ、と声をかけるべきか、ちょっと考える。

熟睡しているとはいえ不自然な体勢に、しばらくすれば起きるだろうと判断して、隣の椅子に座る。彼女の頬から顎のラインに手を沿わせて、静かに名前を呼ぶ。

起きて欲しいような、そのまま眠っていてほしいような。

頬の高い位置にゆっくりとキスをする、すると、パチリと音がしそうなくらいに彼女が瞳を開いた。あまりにも漫画みたいだったから僕は笑った。それからおはよう、と言った。


彼女は、寝起きに笑われたことに対するリアクションでもなく、おかえりなさいでもなく、小さな声で、よかった、と言って僕の首に腕を回した。


時々、夢から覚めた直後の彼女は、不安そうにしていることがある。
理由を聞いても、わからないという。夢の内容も覚えていないという。ただ僕は、エリナにとって夢とはそういうものなんだ、と思うことにしている。
そして、そうした朝には必ず、いってらっしゃい、気をつけてね、といつもに増して気持ちを込めて彼女は言うのだ。

彼女が何に不安を感じているのかはわからないけれど、彼女の目覚めに誰かがいることで彼女が安心するのなら、傍に居ることは僕の役目なのだと思う。

今日も、明日も、変わらず僕は彼女の傍に居る。
白いレースの向こうの空は、雲一つない、心配なんていらない。





「おばあちゃん、おばあちゃん」

小さな手に揺さぶられて、私は目覚めた。
椅子に座って本を開いたまま、眠ってしまっていたようだ。

「全然起きないから死んだのかとおもったぜ」
茶化すとも安心したともとれる声で、孫のジョセフはケラケラ笑う。

「夢をみていたわ、」
「どんなの、聞かせて」

そうね、どんなだったかしら、こことは違う小さなアパートのようなところにいたわ、わたしは看護を学ぶための学校に通っていて、ええと、だいぶこことは違ったの、表の通りには車がたくさん走っていたし、地下鉄も複雑に入り組んでいた。

「アメリカみたいなとこ?」
「そうね、そうかもしれないし、もしかしたら未来かも」
「え!未来?どんなのどんなの」

だんだん意識が現実に近づくにつれて、夢の内容はするりと逃げていってしまった。
おだやかで、やさしい夢だった、気がする。それはとても。


続きをせがむ孫の後ろでカーテンが風にあおられて、薄青一色の空が手招きした。

2014/08/25(Mon) 23:55 

◆指先に触れるガーネット 岸辺露伴 


書斎に入ると、机に向かっている露伴の背中は、動きを止めていた。
普段ならば目まぐるしく自在に筆をとり、流動的に原稿に向き合うのが彼の常だった。


ティーカップに注いだアールグレイを波立たせないように、仕事机に、置く。



彼の人差し指には、ぷくりと赤い血が、玉になって付いていた。
今回も巻頭を飾る原稿の上に、原因を作った使い慣れたGペンが転がっている。


「仕事道具に牙を向かれた」

露伴は悪態を吐くでも眉を顰めるでもなく、人形のように指先を見つめている。彼の全てであり拠り所であり最も信頼している原稿用紙の上の世界は、彼と密接でありすぎた。


わたしは、彼の指先を手に取り、口に含んだ。
舌先に僅かな鉄の味とインクの匂いが広がった。


いまの露伴には、彼が追い求めているリアリティが欠落している。
人は誰しも評価されることを望み、恐れる。

切り離したリアリティとは裏腹に、わたしと目を合わせた彼は、ニヤリと微笑んだ。

2014/08/24(Sun) 15:34 

◆色めきたつチェリーピンク 空条承太郎/3部 


まばらに雲がたなびく青空の下、空条承太郎はいつもに増して無口だった。


暦の上では秋の風が、少し離れた場所に居る花京院の前髪を揺らす。
彼は手に持った惣菜パンもそのままに、フェンス越しの校庭を屋上から見下ろしている



いよいよといった彼の物憂げな表情に、面倒なことになったと思った。
帽子の鍔をぐっと下げ、硬く目を瞑る。


花京院はここのところ空条家によく来ていた。最初のころは承太郎の父のコレクションのレコードを聴きに、そして今はというと承太郎の幼馴染に勉強を教えにきている。

転校する前進学校に通っていた花京院は、学力はもちろんのこと本来から持ち合わせている物腰の柔らかさもあり、飽き性でどうしようもない承太郎の幼馴染にとって、とても優秀な家庭教師となった。

最初は夏休みの課題をみるだけだったはずが、休み明けのテストの点が良かったことによりできれば今後も勉強を教えて欲しいと、彼女のほうから言い出した。花京院は、ええ、いいですよ、と彼女の点数が上がったことを素直にうれしく思い、快諾した。


―その情景を思い出し、承太郎は鍔の下で眉間の皺を深くする。


勉強会は承太郎が参加せずとも空条家で続いている。
最初にそこで始まったからそういうものとなってしまったのか、承太郎の母親の「家に若い子が集まって賑やかなのはうれしいわ」という発言を二人が真に受けてしまったのか、それとも毎度出されるお菓子を目当てにしているからなのか(花京院はともかく幼馴染ならそういうこともありえると承太郎は思い当たる)。とにかく慣習になっている。

それだけならいいのだ、なんら不服は無い。

彼女が解けない問題に向き合っている姿を、傍らで見守る花京院のまなざしの色が、日を追うごとに濃くなっていくのに、気が付かないわけはなかった。

ひとつ、もうひとつと、問題が解けてゆくにつれ、彼らの信頼関係も積み重なってゆく。
幼馴染の笑顔が、花京院に向けられていく―。




「そろそろ教室に戻ろう、承太郎」
花京院の声に、意識が屋上へと戻る。


「俺はいい、それから今日はあいつの家に、直接行ってやれ」
目を閉じたままでも、花京院が少し息をつめたのがわかった。


ややあって、
「それはできないよ」
という言葉に予鈴のチャイムが重なった。


彼女は、君と過ごしたいんだよ。


その言葉が持つ波のようなうねりと共に、承太郎はひとり屋上に残った。

2014/08/23(Sat) 23:55 

◆リラの口づけ ジョセフ・ジョースター/3部 


その石造りの教会は、砂漠と岩地が混在する地に、突如として現れた。

石造りといっても、それは岩壁を削り取るようにして造られたもので、こんな偏狭の地にあることからして、ままならぬ事情からひっそりと存在しているのだろうと想像された。人影は無かった。

太陽の日差しで白く照らされた外壁に、ぽっかりと石のアーチが口を開けている。

アーチを潜ると、外との対比に目が慣れるまでしばらくかかった。
内部は簡素でそれ故に頑強な造りで、この建物がかなり古い年代のものであることを物語っている。

広い空間に、わたしたちの足音がよく響いた。思っていたよりも中は広く、何部屋にも分かれている。いつの時代からか止まったままだった時が、わたしたちの進む空間だけ微かに動き出したようだった。ひんやりした石壁からは、人々の重厚な祈りが聞こえてきそうだ。


奥の間は、複雑な様式でくり抜かれた天井から、光が差していた。
正面の突き当たりには、厳かに十字がましましている。


皆が他の部屋の散策に向かった後も、ジョースターさんはその部屋に佇んでいた。岩壁をおぼろげに反射した光が、彼の輪郭を縁取っている。

承太郎や花京院たちの、纏う空気といえばいいのだろうか、時の流れとは違う次元にジョースターさんは居る。ポルナレフやアヴドゥルたちよりも深い、わたしなんかでは到底及ぶこともできない、重ねてきた時間の重みの中に彼は存在しているのだ。

彼は何も言わず、大仰なそぶりをするでもなく、ただそこに立っている。
…密やかに祈っている。

わたしにはその背中を見つめることしか、できなかった。

2014/08/21(Thu) 23:55 

◆ホリゾンブルーの水平線で 東方定助 


海と川の境目はどこにあるのだろう?
流れ込む淡水はやがて海の水と混ざり合って、川ではなくなる。けれども上流へと遡ってみれば、それはまぎれもなく川なのだ、海ではないのだ。

海に住む魚たちはどこまでを自分たちのテリトリーとみなし、その逆に川の魚たちもどこまでを自分たちの生存領域とみなすのだろう。

海の水と川の水、そのどちらでもない中間の場所があるのだろうか。
だとしたら、そこに迷い込んだ魚たちは、自分たちがどちらの領域に属していたものなのかわからなくなって、きっと苦しいだろう。



ゆるやかな潮の匂いが浜辺へと吹きぬける。
隣で寄り添う彼女の、白地に淡い花柄のワンピースが、ふうわりと風を含んだ。

「今日はあんなに遠くの水平線までみえる」
彼女は片手で帽子を押さえながら、水平線に浮かんだ小さな白い船を見ていた。

「水平線は気持ちいい、空と海がスッキリ分かれてる。」

その言葉に、彼女が何故だか悲しそうな顔をした気がした。
どうかしたのと聞く前に、彼女はオレの指先をそっと握った。

「定助、」

抱きしめた彼女の体にはすっかり潮の匂いが染み込んでいて。
満ち足りているとも、切望しているともつかめない気持ちが、胸から広がる。



二色の絵の具を混ぜ合わせたような、水域。
魚たちが互いに共存しあうその場所が、穏やかな色をしていてもいいと思った。

2014/08/20(Wed) 23:55 

◆カプリブルーに身を委ね 広瀬康穂X東方大弥 



入浴剤は浴槽のお湯にタプンと沈み、小さなあぶくを上げ始めた。

「水面でちいさな泡たちが弾けるのって、音楽が始まる前の予感と似てるわ」

そうだ、その音楽を聞き逃さないように、と言われていたんだった。
脱衣所に引き返し、服を脱ぐ。

パパが海外に行ったときに買ってきてくれたの、エキゾチックな香りがする、お気に入りなんだけれどすぐに手に入るわけじゃあないでしょ、でも康穂ちゃんにならひとつ、あげてもいいよ。大弥ちゃんがくれた入浴剤。

浴槽の中は薬剤の周囲からトロピカルな青色へと変わり、小さな海が広がってゆくようだった。憲助さんは南の島へ行っていたのだろうか。コーラルピンクの珊瑚に、海草でかくれんぼするクマノミたち、ウミガメの回遊。


うっとりするような、夢想。
けれど、彼女が共有したかったものとは違うことに、少しの寂しさを覚える。


脳裏に浮かんだものも含めて一切の視覚情報を遮断しようと、電気を消し、目を瞑る。
ゆっくりと湯気を吸い込むと肺が香りで満たされた、あたたかい湯船に身を任せる。


泡の音に混ざって微かにマリンバの音色が聞こえる気がした。



うっすらと目を開けると、イメージは暗闇の水面に霧散した。
わたしは、彼女とどこまで感覚を近づけることができるのだろうか。

2014/08/19(Tue) 23:55 

◆笑顔のジョンブリアンは何を想う 東方大弥X東方定助 


ジリリリリリリ、
鳩お姉ちゃんの目覚ましが鳴ったわ。

トントントントン、コポコポコポコポ、
ああこれは、虹村さんが朝食の用意をしている音よ。


さあ起きなくちゃ、幸福な朝がやってきた。

今日はどんなお洋服がいいかなぁ、たまにはピタッとしたのもいいかもしれない、それともスベスベしたの?ううん、やっぱりふわふわのがいいわ!フードのついてるのよ?

でもでも、どうだろう、お気に入りのお洋服ばかりじゃあ、定助にこれしか持ってないのかなって、思われちゃうかなぁ。そうだ、そうだ、今日のあたしにはどれが似合うか聞いてみよう。

隣の定助のお部屋は物音ひとつしない、きっとまだ寝てる。
うふふ、朝一番のおはようは、わたしのものね。



太陽が昇って、沈んで、また昇って。
あたしの外は明るい世界。そんなの関係ないわって、ヘッドホンで耳も塞いで、ずっと夜中の気分でいるのはお終いなのよ。


「キャーリィーフォーニヤアァァ」


定助、あなたがいるから、昇らない太陽にも意味が与えられたのよ。
あなたにおはようを言うために、朝はやってくるの。

2014/08/18(Mon) 22:56 

◆真夏のエバーグリーン 虹村億泰 


 
「ねえそれで、久々に会った彼とはどんな話したの」
始業式の日、後ろの席の親友が身を乗り出して真っ先に聞いたのがこの言葉だった。

「え、ええと、」
興味に輝く彼女の瞳に圧倒されて、わたしは視線を泳がす。
彼女が言った彼とは、(何の拍子だったかわたしが春先に)気になる人がいると何気なくこぼしてしまった人物のことである。もとより相談するつもりはおろか打ちあけるつもりもなかった、ひそかな恋とも憧れともつかぬ想いだったもので、親友にはその人物のことも関係も成り行きも事細かには話していない。しかしその何気なくこぼした想いを彼女はしっかりと覚えていて、何ヶ月たとうが何度も訊ねてくるものだから(それに思い返せば終業式にわたしは浮かれていたのかもしれない)、夏休みには彼に会える、とぽつりと教えてしまったのだった。

「どんな話したっけ、忘れちゃった」

毎年のお盆の集まり、久々に見た彼はまた背が大きくなっていて、数年前まではわたしと背比べをしていたのが嘘みたいに思えた。わたしを見つけるなり、低いけれども明るい声で彼は

なぁ、どっか体の調子わるいとこねぇ?
あったとしたらウマいもん食わせに行ってやるよ!水虫もなおるんだぜェ!

と、しばらく会わなかった距離を乗り越えて話しかけてきたのだった。
冗談とも本気ともわからないテンションで彼が話した奇想天外なレストランの話を思い出してふ、と笑みが漏れる。

その表情を見逃さなかった彼女がそんなにいいことあったなら話してよォと拗ねたが、知らないほうがいいこともあるのだ、彼とわたしの関係については。


「ねぇねぇ教えてってば、虹村ちゃん!」

親友がわたしの名前を呼ぶのと同時に、担任が教室のドアを開けた。
体育館へと続く渡り廊下を列になって進む、まだ蝉は鳴いている。

2014/08/17(Sun) 23:55 

◆世界の果てのウィスタリア 花京院典明 

 
夜とも朝ともつかない時間がすきだ。

そっと窓を開けると静寂な空気が部屋を満たした。僕は彼女を起こさないように傍らに座わり、ブランケットを掛けなおした。うっすらとした乳白色の光は、彼女の頬を陶器のように僕の目に映す。

過酷な太陽の下で赤茶けてしまった髪を撫でる。指に絡ませると日本にいた頃はしなやかだったはずの彼女の細い髪は、少しばかり痛んでしまったように思えた。


どうしようもないこの気持ちが、このうっすらとした光の中に溶け込んで消えるように、僕はゆっくりと息を吐く。


このまま、世界が目覚めなければいい。どうか、彼女をゆっくり眠らさせて。

2014/08/16(Sat) 23:55 

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