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待ち合わせ
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バイトが終わった頃、大和から電話がかかってきた。


「もしもし?」
『終わった?』
「うん、いま終わった」
『オレさ、買い忘れがあっていまスーパーに来てて』
「あ、そうなの?」
『迎えに行く。これから店のほう向かって歩いてくから、真ん中で落ち合おう』
「…」
『いい?』
「あ、うん、わかった!」


慌てて荷物をまとめる。

「どうした、急ぎの用?」

久仁彦おじさんに声をかけられる。

「う、うん! 上がります! おつかれさまでした!」


慌ただしくお店のドアを開け、外に飛び出す。
早歩きでスーパーの方へ向かう。

(お店とスーパーの中間……広場のあたりかな…)


気持ちが焦って、早歩きが小走りになる。


待ち合わせって、どうしてこんなにドキドキするんだろう。




視線の先に、背の高いシルエットが見えた。
足元を見て歩いていたその人が顔を上げる。

「大和!」
「おー」

片手を上げて大和が立ち止まる。


今日は土曜日で仕事はないから、クタッとしたTシャツを着ている。
「ずいぶん着古してるね」と聞いたら、よくわからない長いバンド名のツアーTシャツだと言っていた。
この前、洗濯物であの着古したTシャツを畳んだとき、思わず顔を埋めた。
Tシャツからは柔軟剤の香りと、染み付いた大和の匂いがした。


「おつかれー」


多分、今日は初めて外に出たんだろう。
髪はセットされていなくてちょっとボサボサしてる。
指を通すとサラサラになるあの茶色い髪は、雨の日も広がらないハリとコシを持っていて、猫っ毛の私からするとうらやましい。


「転ぶぞ」


小走りで近づく私を見て、大和がおかしそうに笑っている。

その笑顔に向かって走る。

どんな顔すればいいんだろう、変な顔してないかな、お化粧なおしてくれば良かった。
短い時間の中でそんなことばかり考える。



あと5メートル、というところで。

大和が両手を広げた。


(え?)


「……!」
「…っと」


大和の目の前、すんでのところで足を止める。


「…なんでそこで止まるんだよ、飛び込んでこいって」
「わ、わたし犬じゃないし…それにここ、外だよ?」
「それは家ならハグしていいってこと?」
「ちがう…」

最近大和はこんな思わせぶりなことばかり言って私をからかう。
だからと言って、本当に抱きしめたりはしない。


「おつかれ、腹減っただろ」

そう言って差し出された手に、手を重ねた。


並んで家へと歩き出す。

「なに買い忘れたの?」
「ターメリック」
「ターメリック?」
「黄色いご飯つくるやつ」
「あ! そしたら今日はカレー!?」
「正解。鴻上家特製カレー」
「やったあ」
「帰ってから飯炊くから、早炊きしなきゃだなー」







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