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花丸にキスもつけてやろうか?
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沸騰直前のお鍋から昆布を取り出す。


「一度沸騰させてから、かつお節…」
「うむ」


キッチンに立つ私の背後には、試験監督のように見守る大和。
今日は鴻上家直伝「だし汁」の取り方の『検定試験』を行っているのだ。


(大和と出会う前は、だしの素使っちゃってたけど…)


削り器で削ったかつおぶしを、一度火を止めた鍋に入れる。


(大和と暮らし始めて、だしの取り方から、お料理のあれこれを教わって…)


浮かんでくるアクをすくいながら、いっしょに作った料理の数々を思い出す。
このキッチンも、2人で使うようになってからは、私の使い勝手に合わせて配置を変えてくれていることが嬉しい。


「よし…」
「……」


火を止める。
大和の視線を感じながら、お鍋を傾け、こし器でゆっくりとこしていく。


(緊張する……)


取り皿にひとくちすくい、大和に差し出した。


「師匠、お願いします」
「うむ」


私の手から取り皿を受け取った大和が、ゆっくりと口をつける。
ドキドキしながらその表情を見つめていると……


「…うま味がしっかり出てる」
「ほんと?」
「濃さもちょうどいい」
「…ということは?」


「うむ、合格!」
「やったー!!」


両手でガッツポーズを作る私を眺めながら、大和が笑う。


「上達したもんだな。同居始めた頃はパックに入ってるかつおぶししか知らなかったくせに」
「大和のおかげだよ! 師匠の指導が良いから」
「だろ? 腕も良い、教え方も上手い、さすがスーパーイケメン旦那だろ?」
「師匠、調子に乗り過ぎです」
「はは。つっても、オレもばあちゃんがミッチリ教えてくれたおかげだけどな」


おばあちゃんから譲り受けたという、年季の入ったかつおぶし削り器を、大和が大切そうに見つめる。


(大和がおばあちゃんの話をするとき…いつもこんな優しい顔してる)


胸が温かくなるのを感じながら、大和に尋ねてみる。


「…じゃあ、私もちょっとはおばあちゃんの味に近づけたかな?」
「いや…っつーか…」


大和が一瞬考え込む。


「…これは、うちの味だな」
「うち?」
「オレと、お前が作っていく、うちの味」
「……」


(大和と私の……)



「…まあ、だしが取れるようになったぐらいで調子にのるんじゃねぇぞ。まだまだ教えることいっぱいあるし」


自分の言ったことに照れくさくなったのか、大和は耳を赤くしながら早口でしゃべる。


「次は何の検定する? やっぱ魚の捌き方…」
「大和!」
「うおっ」


溢れそうになる気持ちを伝えたくて、飛びつくように大和の背中に抱きつく。


「な、なんだよいきなり」
「大和、私これからもお料理がんばるから」
「おう…」
「たくさん修行して、たくさんうちの味作っていく」
「…うん」


(大和がおばあちゃんやお母さんに大切に育ててもらったように、私も大和のこと、ずっとずっと大切にしていきたい…)


「なので、イケメン師匠、これからもご指導のほど、よろしくお願いします!」
「…任せとけ」


くるりと振り返った大和が、その大きな手で私の頬を包む。


「とりあえず、本日のだし検定は合格。100点満点の、花丸な」
「花丸もくれるの? 嬉しい!」
「ついでに…」
「ん?」


不意に顔を近づけた大和が、耳元で囁く。



「…花丸にキスもつけてやろうか?」

「!」



End

「花丸にキスもつけてやろうか?」は、ラブスクで「Wonderful!」が出たときの大和のセリフからお借りしました!





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