TEXT Enquete

お詫びにどうぞ
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「研究授業用の資料作り、終わったー!」
「あ、お疲れさま〜」


バタン!と音を立ててドアが開く。
リビングに入って来た大和の視線が、すぐさま私の手元に向かった。


「大変だね〜、おうちでもお仕事なんて」
「……」
「大和?」
「……それ」
「え?」


私の手元には、たった今食べ終わったばかりの、空っぽになったわらび餅の容器。


「…それ、オレがとっといたやつ」
「え? 食べないんじゃなかったの?」
「…誰がそんなこと言ったよ」
「だって最近お腹まわり気にしてるし…ずっと放ってあったから食べないのかと思ってた!」
「食べない訳ねえだろ…」


しゅんとした顔をして、とぼとぼとこちらへやって来る。
ため息をつきながら、隣にドサッと腰かけた。


「資料作り終わったら、ご褒美に食べようと思ってとっておいたのによ…」
「そ、そうだったの?」


(まずい…ひどいことをしてしまったのかもしれない…)


慌てて埋め合わせの方法を探す。


「あ! アイスなら冷凍庫にあるよ? アイス!」
「…わらび餅が食べたかったんだよ」
「じゃ、じゃあ今から買ってこようか? セブンイレブンにもわらび餅あったから!」
「…あのデパ地下で買ってきたそのわらび餅が食べたかったんだよ」
「……」


(だめだ…完全にへそ曲げてる…これは謝り倒すしかない…)


「大和…ごめんなさい」
「……」
「…ちゃんと大和に確認取るべきだった。明日、同じわらび餅買ってくるから…」
「……」
「だから…機嫌直して?」
「……」


大和に向き合い、両手を合わせ、神妙な顔でお詫びをする。
頬杖を付いて横目で私を見ていた大和が、ゆっくりと口を開いた。


「……だめだな」
「えっ」


(…そんなに怒らせちゃった!?)


「オレは仕事を片付けたまさに今この瞬間、わらび餅が食べたかった。わらび餅を食べるために仕事を頑張ったと言っても過言ではない」
「そ、そんなこと言ったって…」
「だから、その代わりに…」


ギラリ!と大和の目が光る。


(はっ、この目は…!)


気付いたときにはもう遅く。
腰を引き寄せられ、あっという間にその腕に抱きしめられる。
耳元で低い声がつぶやいた。


「…このわらび餅を差し出してもらうしかねぇな」
「な、なにを…」
「いっただきまーす」



ぱくっ



「ひゃあっ!」


(ほっぺ……甘噛みされてれる…!)


頬に柔らかく噛み付いた大和は、軽く歯を触れさせ、唇を動かす。


「んー…」
「や、食べちゃダメ! もぐもぐしちゃダメ!」
「…ぷっ」


耳元で吹き出す声が聞こえ、口が離れた。


「いや〜、絶品だなこの弾力感。さすが本家本元!」
「なんの!?」
「どれどれ、こっち側も…」


体を傾け、今度は反対側のほっぺを甘噛みされる。


「んんー…」
「くすぐったい…くすぐったいよ!」
「こーら、暴れんな」


恥ずかしさから必死で身をよじる。
ぱっと口を離した大和は、わらび餅を嘆いていた先ほどとは打って変わって、満面の笑顔。
この上なく満足げに、私のほっぺを人差し指でつついてくる。


「うん、最高。つうかモチモチ感増してないか?」
「え…ウソ、それってお肉が付いたってこと…?」
「人のわらび餅まで食ってるからだ」
「お腹まわり気にした方がいいのは私かも…」
「腹まわり? どれどれ…」


(はっ! この展開は…!)






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