夢小説

□喜八郎 おもらし
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「おやまぁ。まさか自分で落ちるなんて」


喜八郎は自分で掘った落とし穴に落ちてしまった


「落ちたのはお前だけじゃない」


作法委員会委員長、立花仙蔵も落ちてたのである


「立花先輩も居たんですね」


「あぁ。それにしてもやけに深いな」


「今までで掘った中で一番深いですから」


いつもどおり無表情な喜八郎に仙蔵は溜息が出る


「これを人の力だけで登るのは不可能だぞ」


「そうですね。助けが来るまで待ちましょう」


どこまでもマイペースな喜八郎と、近くに人が通らないか見上げている仙蔵


数時間経っても人の通る気配を感じない


「立花先輩」


「何だ」


仙蔵は不機嫌そうに答える


「いつまでここにいるんですかね」


「知らん」


「(この状況で厠に行きたいなんて言えない)」


マイペースの喜八郎でも躊躇するぐらい機嫌が悪い


だが、一度気づいてしまった尿意は高まるばかり


「(はぁー)」


喜八郎は心の中で何度目か分からないため息をついた


「具合でも悪いのか?」


先程話しかけてきて以来ずっと無言で座り続けている喜八郎に心配になった仙蔵は話しかけた


「大丈夫ですよ」


いつも通りの口調


だが、口元はギュッと結ばれている


「もし体調が悪いなら遠慮せず言ってくれ」


「はい」


ジュッ


「(少し出ちゃった)」


我慢も限界に近づき、いつ漏れてもおかしくない


「立花先輩」


「何だ?」


「厠」


「行きたいのか?」


「我慢できません」


「えっ?」


仙蔵が驚くのも無理がない


低学年の1年生ならまだしも、高学年に値する4年生の後輩から言われたのであるから


「もう我慢出来ないか?」


「はい」


こういう時、どうすればいいのか分からない


シャァァァァーーーーー


辺りに水音が響く


「見ないで下さい」


「あぁ」


仙蔵は目を瞑り、耳を塞いだ


これが今の自分に出来ることだと思い


「ヒック……グス…」


喜八郎の泣き声だけが聞こえる


「すまない」


「先輩が・・・ヒック、謝る事じゃないですか」


「私が気付くべきだった。すまなかった」


懐から手ぬぐいを出し、喜八郎の涙を拭う


「これは二人だけの秘密だ」


「は、い」


助けが来るまであと少し・・・

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