涙の池

□噺家の回想録
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ほんの少し開いた窓から入ってくる風に
カーテンが揺れる。

そのままベッドで眠る少年の頬を撫で、風は部屋の中を走った。



『...う、寒...』


頬を撫でた風に震え、目を覚ます少年。


彼の名は綴葉蓮。
つい最近まで貧民街にいたが、この家の
主である藤崎夫妻に拾われ、今現在我が子供のように可愛がられている。


もぞもぞとベッドから這い出て着替える。


少年は、13という割には痩躯だ。


今までの生活がどれほど酷かったものかがすぐに見て取れるほど、彼は痩せていた。


灰色のカーディガンをシャツの上に羽織り、自室から出る。


階段を下り、下に降りるとリビングから
いい香りがしてきた。


『おはようございます。』


リビングの扉を開けると、主人である
藤崎裕が新聞を読んでいた。


「お早う、よく眠れたかな?」


『はい、ぐっすり眠れました。』


「それは良かった、昨日上げた本はとうだった?」


『とても面白かったです!裕さんのくれる本、いつも面白くてつい夜ふかししちゃいますよ。』


ちゃんと早いうちに寝ないと買わないよ?
とくすくす笑う裕。


「お早う蓮くん、今日の調子はどうかしら?
怠くない?」


朝食を並べ始めた奥方の藤崎百合子が
蓮の調子を伺う。


『おはようございます、今日はいい方です。』

「ふふ、良かった。朝ごはん、食べられるだけで
いいから、いっぱい食べてね。」


よしよしと蓮の柔らかい髪を撫で、また
準備を始める百合子。


「ああ、そうだ。蓮、今日は私も百合子も
少し買い物に出てくるけど...1人で留守番出来るかい?」


『る、留守番くらい出来ます!』


そんなに子供じゃないです!と言い張る
蓮に、裕はまた笑う。


「ごめんごめん、でも心配なんだよ。
そうだ、また本を買ってこよう。矢っ張り
童話の方が読みやすいかい?」


『そう、ですね。茨姫とか、氷の女王はすごい読みやすかったです。』


「蓮くんは本当に裕さんと同じで本が好きね。
たまには私にも構って頂戴な。」


ほら、そこの本の虫のおふたりさん、早く席にお着きなさいと百合子に言われ、
本の虫ふたりは顔を見合わせて席についた。




これが、今の蓮の日常だ。












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