涙の池

□獄都事変
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ざく、ざくと踏まれた草が音を立てる。


もうだいぶ日が落ちているから足元も暗く、周りが木々だということも相まって不気味な感じがする。


一層強く吹いた風に反射的に目を閉じ、開けると目の前にはいかにも出ますよといった木造の廃校。



『…帰りたい、なんでこうなったんだ…』


目の前にそびえる廃校に、ひきつった笑いがこぼれた。



――――――――――――――


事の始まりは、うわさからだった。



あるビルから飛び降り自殺が何件か起こり始め、そこに女性の霊が出るといううわさが出回り始めた。


最初はただそこらの学生が遊び半分で言い始めたのかと思っていたら、そうでもないらしくて。


そろそろなんか嫌な予感するな〜なんて思っていたら案の定お得意様な神主さんからどうにかしてくれないかとのご相談。

まあ確かにこのまま放っておけば下手すれば悪化する。
それに人ならざる者はうわさが大好物だ、いいことなんて起きるわけない。


…やるっきゃないじゃん??
けど、絶対にいるじゃん、やばいやつ。


さてどうしようと考えながら街中を歩いていたはずだった。


のに、今なぜか私は廃校の前に立っている。



『これ絶対呼ばれたやつ…帰れないパターンだよね知ってた…』


しかも今日やるつもりなんてさらさらなかったから何も用意してない!!詰んでる!!!


肩から下げたバックに入っているお手製のまじない札である護符を確認する。


発火するのが3枚、探し物用が2枚、拘束するのが2枚に、滅する用が2枚。


うっわポンコツかよ。
攻撃系5枚とかこの廃校内で余裕で使い切るでしょ。


しかも私は残念ながら攻撃系よりも足止めしたり、弱らせたりとかそういうサポート系の方が作るの得意なのだ。

その場で書いたり作るにも攻撃系には時間がかかる。

今持っている滅する用の護符も効力は弱いし、作るのに1週間かかった。

『…ええい女は度胸!!陰陽師なめんな!!』


頬を両手で叩き、気合を入れる。

行こう、頑張るんだ逢瀬彼岸!

廃校に近づき、昇降口に手をかける。
勢いよく開いて中に入る。



『うっわまじか…瘴気すごい…』


あちこちから黒いほこりみたいなものが舞ってくる。
おまけに何かの笑い声があちこちから聞こえてくる。

もう心折られそうだしなんか泣きたい。

とりあえず、柏手を打ってみよう。
多少はよくなるかもしれない。

パン、パンと二回打つと私の近くにいた埃っぽいものや瘴気はましになったが、あんまり効果はなさそうだ。


まあこんだけ広いのにここだけ清めてもねーって話だこんちくしょう。


―――――人の子だ。人の子が来た。

――あの子に呼ばれた人の子が来た。

――――――――早くお帰り、人の子よ。ここにいては危ないよ。

―――帰れなくなる前に、鬼が来る前に。



『え、鬼いるんですかここ。』


鬼といえばいい思い出がこれっっっっっっぽっちもない。


最後にみたのは、確かじいちゃんの葬式の時だったかな。



―――――あの子を捕えにやってくる。

――気をつけなさい、人の子よ。あの子にも、鬼たちにも。

――――――――魅入られやすい人の子、困ったら呼んで頂戴ね。



『…お代取らないなら、助けてもらいますよ。』


基本こう言ってくる奴ら、というか人じゃないモノたちは助ける代わりに何かをねだってくることがある。


もちろん、お代は助けてもらった分に比例するけど中にはいきなり命取りに来るやつもいるから相手は選ばないといけない。


後ろを振り返れば、ぴたりとしまった昇降口。
開けようとすると、ばちっという音がしてはじかれた。



『本格的にまずい方向だなぁ…』


バックの中に入っていた護符を上着として羽織っていたパーカーの裏に忍ばせる。

いざという時すぐ出せないと使えないので私の持っている上着にはすべて内ポケットがついている。


『まずは、探検から始めよう。大丈夫私はできる子。』




お化けなんて怖くなーいさ!!!!





















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