涙の池
□活劇 刀剣乱舞
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―――――文久3年。
倒幕派と佐幕派が世を二分し、刀の時代が終わりを告げた時代―――幕末。
これ以降、今まで活躍してきた日本刀は歴史を語るものとして保存され、時には飾られて人々とともに現代を生きていた。
しかし、ある時から“時間遡行軍”と呼ばれる者たちが現れ始め、あろうことか歴史を書き換えようと過去の出来事をひっかきまわし始めたのだ。
これを放っておけるはずがなく、政府は対抗策を講じた。
それは、刀に宿る“付喪神”を“審神者”という霊力を持ち合わせた人間に呼び起させ、歴史を遡り正しい時代を守るといったものだった―――――
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〈文久3年 とある城下町〉
『ふあ…眠い…』
宿屋の窓から差し込む朝日が眩しい。
敷布団から上半身を起こし、ぐっと伸びをする。
≪おはようございます香様!お召し物をお持ちしました!≫
『おはよう、薄氷(うすらい)。』
灰色の袴を持ってきたのは白い狛犬。
政府から私の相棒としてついてきてくれた子だ。
『ありがとう、いつも悪いね。』
着替えを受け取り、袴に着替え始める。
≪何のこれしき!香様のお持ちの服ではここでは目立つので動きにくいとは思いますが…≫
『慣れればそうでもない。朝餉を食べたら見回りもかねて調査に行こ。』
≪承知しました!≫
ごっはん、ごっはんと足元をくるくる回る薄氷。
うん、今日もお供が可愛い。
女将に声をかけ、軽い朝餉をもらう。
『はあ〜…いつの時代も味噌汁がうまいといいね…幸せ。』
≪香様も毎朝召し上がっていたのですか?≫
『うん、うちはいつもじいちゃんのだった。…また飲みたいな。』
つ、と目線を部屋の隅に立てかけている太刀に向ける。
≪…この戦いが終われば、飲めますよ。≫
『そうなるように私はここにいるんだよ、薄氷。』
ごちそうさま、そう告げて半分残してしまった朝餉を下げる。
そして太刀―――雪椿を腰に差し、部屋を出た。
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