文豪の涙

□初めまして
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*side夕姫*


福沢さんにも挨拶を済ませた私は
探偵社の事務室でみんなとのんびりして
いた。



何故かはわからないが、治さんの足の間に
座らされている。



(私、もう二十歳なのに……)


恥ずかし過ぎて死ねる。


「ふふ♪」


私の気持ちを露知らずな治さんは嬉しそうに
顔を綻ばせている。



「所で、皆さんは前はどんなお仕事を
していたんですか?」



敦君が、私がお土産で買ってきた焼き菓子を
食べながらそう聞いてくる。



「何してたと思う?」


治さんが敦君にそう、問い返す。


え?という顔をしている敦君に


『ここの定番なんだよ。新入りさんが
私達の元職業を当てるの。』


と、助言する。


成程、という顔をした敦君は谷崎兄妹を
見て


「二人は学生……?」



と、云った。



『正解〜。やっぱり、二人は分かり易いよね。』


妹のナオミちゃんは制服だし。



「じゃあ、国木田君はわかる?」


「よせ、太宰。俺の前職など……」



治さんに聞かれた瞬間、嫌な顔をする
国木田さん。



「お役人さん?」



『あー、残念。独歩さんは元数学教師。』



凄いよね、と云えば本人はとても複雑そうな
顔をしていた。



『残りは、私と治さんか。』


「えー……うーん……」


想像、つかないだろうなぁ……



「夕姫さんは……何だろう……」


『私と治さんの元職業を当てた人、まだ
いないのよ。』


「ええ!?」


敦君は、相当びっくりしたらしい。


「当てた人には賞金があるンですよね。」


潤君(谷崎)の言葉に、頷く。


『中々当たらなくて、賞金が膨れあがって
七十万になってるんだよね。』


七十万、という言葉に敦君が反応した。


「当てたらもらえるんですか?」


「自殺主義者に二言は無いよ。」


『まぁ……自殺主義者ではないけど、当てたら
あげるよ〜。』



敦君がやる気になったらしい。

次々と役職を出すが全て外れ。


「役者は照れるな。」


そう云って、私を抱き締める治さん。


『なんで私を抱きしめるのかな?』


「え、駄目?」


『駄目じゃないけど……』



ま、いいか。


「夕姫さんは、太宰さんの職業知って
るんですか?」


敦君が悔しそうな目で治さんを見ながらそう問うてきた。



『まぁ、知ってるよ。治さんも私の前職
知ってるし。
……でも、私のは職業とはいえないのかな。』



「えー、わかんないですよ!」



『わかる時が来たら私は吃驚(びっくり)
だよ。でも、この件に関しては私も治さんも
嘘はつかない。』



というか、バレたらやばいかな、うん。



『お。』


「どうかした?」



『依頼者、来てるみたいよ。ドアの向こう。』


探偵社の扉を指差すと、潤君が開けた。


そこにいたのはスーツに身を包んだ女性。



(あれ?)


どこかで見たような気がするのは気のせいか?


「夕姫?話を聴きに行くからおいで。」


『あ、うん。』


治さんに呼ばれて着いていく。















そして、この後に起こる事件までの
カウントダウンは針を動かし始めた。





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