短い涙
□ヴィラン連合の日常
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「全く、いつまでたっても降りてこないから見に行ってみたら…今日は死柄木が先生の所に行く日だって知っていたでしょう?」
『俺はそんなの聞いてないですって…てか起きようとしましたよ!弔が離してくれなかったんです!』
バーカウンターでグラスを磨く黒霧さんにそう言うがため息をつかれただけだった。
『あ、黒霧さん。今日外に出てきてもいいですか??』
「ええ、かまいません。そもそも貴方は外出禁止でも何でもないんですから、自由に外出なさていいんですよ。」
『あはは…黒霧さんはそう言いますけど、弔がそう許してくれないんですよ。』
弔はとにかく自分から俺が離れていくことを嫌う。
自分の視界に収まってさえいれば問題はないのだが、見えなくなるともう大変。
一回軽い監禁生活になった時はまずいと思ってお話合いという個性ありのケンカをした。
俺の個性は血界戦線、あいつの個性は崩壊。
俺は自身の血を傷口から糸のように伸ばし、弔はそれを片っ端から崩していた。
が、俺の個性には限界がある。
自身の体内にある血液を出し切れば個性は使えなくなるし、もちろん俺も死ぬ。
だから弔もなかなか個性が使えずやきもきしていた。
お互い譲れない戦いをしていた終止符を打ったのは、先生と黒霧さんだった。
それからは少しずつましになったが、未だに長い時間離れると弔が我慢しきれなくなる。
出かけるときもなるべく弔がいないときにするし、必ず黒霧さんに声をかけるようにしてるんだ。
「死柄木には伝えておきますよ。あまり遅くならないようにしてくださいね。」
『わかってます。じゃあ、行ってきますね。』
先生からもらったスマホと財布を持ち、弔の黒いパーカーを着てフードを被るり、バーから出た。
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『さて、出てきたはいいけど何しようかな。』
俺は普段暴れたりする系じゃないからヒーローたちに顔が売れてるわけでもない。
でも、一度は捜索届けがされた身、もしかしたら俺の顔を知っているヒーローがいるかもしれない。
フードかぶってるから大丈夫な気もしないでもないけど、人が多そうなとこはやめておこうかな。
ふらりと路地裏から抜けて人ごみやヒーローを避けて適当に歩き出す。
『ヒーロー、昔より多くなってきたな。』
パトロール中のヒーローとかなりすれ違うが、昔よりも数が多い。
これでは日中でもなかなかヴィランは動けないだろう。
ふと目の前を一組の夫婦と子供が通った。
子供は両親に両手をつながれて楽しそうに歩いている。
「おかあさん!今日ぼくハンバーグがいいな!」
「そうね、そうしましょうか。じゃあ今日はお手伝いしてくれる?」
「うん!!おいしいのつくる!」
「じゃあ父さんはおいしいごはんを二人が作っている間にお風呂の準備だな!」
笑顔の三人、幸せそうな家族。
もし、あの日、父さんと母さんがーーーかったら、俺もあんな風な会話ができたのだろうか。
もし、あの日、−−−−が俺たちを、
そこまで考えて、ふと自分の手首に爪を立てていたことに気づいた。
いけない、またやってしまった。
手首からは出血しており、袖に少しにじんでしまっている。
弔のパーカー汚しちゃったな。
手首の出血を個性で止め、またさっき出てきた時とは違う路地裏に入る。