番外編

□初デート
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迷宮のラビリンスを出たまどかは、園内にあるベンチにぐったりとした状態で腰掛ける。


「こ、怖かった・・・って、あれ?」


ふと、顔を上げると、先ほどまで傍にいたはずの遊戯の姿が見えず、まどかはキョロキョロと辺りを見渡す。


(どこに行ったんだろ・・・?)


しばらくボーッとしていると、横からソフトクリームが差し出された。


「!?」

「これでも食べて元気出せよ」


ソフトクリームを片手に遊戯は優しい笑みを浮かべる。


「ありがとう」


ソフトクリームを受け取ったまどかは、ペロリと一口舐めた。


「甘くて美味しい〜!」


パアッと明るくなるまどかを見て、遊戯は嬉しそうに隣に腰を下ろす。


(今日のまどかは、本当に子どもみたいだ)


普段見る事のないまどかの新たな一面を知り、自然と笑みが零れる遊戯。


(・・・もしかしたらまどかには、こんな風な楽しい思い出があまりないのかもしれないな)


幼き頃に両親を亡くし、祖母に育てて貰ったまどか。
まどかの事だ・・・悲しくても辛くても、心配をかけまいと常に笑顔を絶やさずにいたのだろう。


(だからこそ・・・今日がまどかにとって、楽しい思い出となってくれればそれでいい)


優しい眼差しでまどかを見つめていた遊戯は、まどかの顔にかかる横髪をそっと耳へとかけた。


「っ!」


まどかは慌てて耳元に手を添え、真っ赤になりながら口を開いた。


「な、なに?!」

「・・・」


遊戯は何も答える事なく、満足そうにまどかを見つめ続ける。
恥ずかしさのあまり、まどかは遊戯から視線を外し、再びソフトクリームをペロリと舐める。


(・・・今日は、とことん遊戯にドキドキさせられちゃうな)


今までこんな風に過ごす事がなかったせいか、今日はずっと心臓が鳴り止まない。
遊戯の表情、言葉、仕草・・・
その全てが、私の心を支配していく。


(遊戯、もしかして・・・)

「遊戯って、今まで沢山の女の子と付き合ってきたの?」

「なっ!?」


まどかの言葉に遊戯はむせ返り、口に手の甲を当てる。


「女の子の扱いに慣れてるっていうか・・・」


遊戯から目を逸らし、段々と声が小さくなるまどか。


(・・・何を言い出すかと思えば)


自分が優しくするのは、まどかにだけ。
まどかだからこそ、大事にしたいし喜んで貰いたいと思うから、恥ずかしい思いをしても何でも出来てしまう。


それに、何よりまどかは自分にとっての初恋の人。
こんな感情を今までに抱いた事など、一度もない。


ただまどかに喜んで貰いたいだけなのに、それが逆にまどかを不安にさせてしまったのかと、遊戯は困ったような表情を浮かべる。


「まどか、俺は・・・」

「ーーー・・・あっ!武藤遊戯くんだ!」


遊戯が何かを言いかけたその時、2人の女性が声をかけてきた。


「私たち、遊戯くんのファンなの!」

「遊戯くん、一緒に写真撮ってくれませんか?」


2人の女性の勢いに、遊戯は困ったようにまどかに視線を向ける。


「・・・!」


そんな遊戯の瞳に映るのは、拗ねたようなまどかの顔。
頬を膨らませ、ムッと唇を尖らせていた。


(今は私とデート中なのに・・・)


いつもならこんなに嫉妬する事なんてない。
しかし今回は初デートだからなのか、嫉妬心が己を襲う。


すると、遊戯はまどかの手を取り立ち上がらせると、右手でまどかの肩を抱き、左手の人差し指を唇に当て、口角を上げた。


「今、彼女とデート中なんだ。悪いが、また今度にしてくれないか?」

「「あ、はい」」


2人の女性が遊戯に見惚れている隙に、遊戯はまどかの手を引き走り出した。


「ちょっ、遊戯!いいの?」


前を走る遊戯の背に心配そうにまどかが声をかけると、遊戯は軽く首を振り向かせ、口元に笑みを浮かべた。


「ああ!今は誰にも邪魔されたくないんだ」

「ーーー・・・っ!」


君と過ごす時間は、何よりも大切なんだ・・・
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