番外編
□初デート
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「見て、遊戯!とっても綺麗だよ!」
今、遊戯とまどかがいるのはクリボー型の観覧車の中。
いつの間にか空は暗くなり、町の灯りが宝石のように輝いている。
「・・・綺麗だな」
まどかの背後に立った遊戯は、まどかの顔の横から景色を眺める。
すぐ近くにある遊戯の顔に、まどかはドキッとする。
・・・もう、限界だ
まどかは振り返ると、そのまま遊戯の胸へと抱き付いた。
驚いた遊戯はその反動で後ろの座席へと倒れ込み、慌ててまどかの顔を覗き込む。
「大丈夫か、まどか?!急にどうし・・・」
しかし、遊戯の言葉はまどかの唇によって遮られた。
しばらくして唇が離れると、遊戯は戸惑ったようにまどかを凝視する。
まどかは真っ赤に染まった頬を両手で覆いながら、ゆっくりと口を開いた。
「きょ、今日の遊戯・・・とってもカッコ良くて、その、触れたくなったと言うか・・・えーと・・・」
いっぱいいっぱいになったまどかは、恥ずかしさのあまり唇をギュッと噛み締め、遊戯から離れ隣へと移動する。
「まどか・・・」
遊戯がまどかの名前を呼ぶが、隣に座っているまどかは遊戯に背を向け、顔を隠す。
「まどか、こっち向けよ」
「・・・や、やだ。今、すっごく変な顔してるもん」
「まどか・・・」
「・・・」
「まどかの可愛い顔、俺に見せてくれ」
「っ!だから、もうこれ以上は・・・っ」
今にも泣き出しそうな顔でまどかが振り返ると、遊戯はすかさずまどかの身体を引き寄せ、胸の中へとすっぽりと収めてしまう。
「・・・遊戯、もう私、心臓がもたないよ」
「フッ・・・」
「あっ!遊戯、面白がってるでしょ?!」
面白がってなどいない。
ただ単に、まどかが愛しくて仕方がないんだ。
子どものようにはしゃいでいた時の楽しそうな顔、美味しいものを食べた時の嬉しそうな顔、怖がっていた時の泣き出しそうな顔、嫉妬した時の拗ねた顔・・・
その全てが、ただただ愛しいんだ。
「まどか」
優しい声で遊戯はまどかの頬を親指でなぞり、顎をクイっと持ち上げる。
「愛している」
甘い言葉と共にやってくる、甘い口づけ。
どうにかこの気持ちを伝えたくて、まどかの背中に回した手にも力が入る。
そして、名残惜しそうに唇が離れていき、遊戯とまどかはお互いに見つめ合う。
「・・・ねぇ、遊戯」
「ん?」
「今日、とっても楽しかった!一緒に過ごしてくれてありがとう!」
「俺も楽しかったぜ」
「また、一緒に出かけようね!」
「ーーー・・・!」
満面の笑みのまどかを見て、遊戯は言葉を詰まらせる。
(この笑顔にだけは敵わない・・・)
どんな表情の君でも、やっぱり自分が好きなのはこの笑顔なんだと、遊戯は改めて思い知らされる。
頂上を迎えた観覧車は、ゆっくりと降下していく。
すると、まどかは遊戯の顔を見上げピタリと引っ付いた。
「観覧車が地上に着くまで・・・このままでもいい、かなぁ?」
甘えたようなまどかの声と瞳に、照れくさそうに視線を外した遊戯は小さく頷いた。
(最後の最後で俺の負け・・・)
ここまで主導権を握っていたのに、最後の最後で全部まどかに持っていかれてしまった。
しかし、自分の腕の中で幸せそうなまどかを見ると、何も言えなくなってしまう。
(また、来ような)
そんな願いを込めた遊戯は、この2人の時間が終わりを迎えるまで、まどかの髪を優しく撫でながら、外の景色を眺めるのだった。