書簡

□虎と月
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〜side.moon〜

獣じみた唸りと悲鳴しか鳴り渡らなかった戦場で、その刀が玲瓏と言葉のない詩を奏でるのが心地良い。

幾千、幾万と散らしてきた名も知らぬ将兵達への厳かな鎮魂歌のように、刀が放った紅い音の輪が硝子の如く砕け散る刹那、お前が見せる真剣で穏やかな朝焼けの空を思わせる表情が好きだ。

だから私は、お前を尊敬し、お前に魅了され、お前を愛した。

お前が見据える未来の礎の一角でも構わないからと、力をつけんと鍛錬に明け暮れ励んだ。

今となってはもう、曹操の奔放な生き方への憧れを愛と錯覚して苦心することもないし、色恋に呆けて自我を失い色に耽ることもないけれど。

それでも、文台。

普段は恥じらいから口に出しはしないが、お前へのこの思いは永久だ。

どんな城の壁よりも堅固堅牢で、そんな名刀よりも鋭く繊細な私の思いは、ただお前一人によって完成する。

砂辺に打ち上げられた魚のように、置き去りにされた赤子のように、洪水の濁った激流に流されていく犬猫のゆおに、孤独で脆い泥玉の魂。

それが、醜悪な私。

だから、そんな醜い私を愛してくれて・・・ありがとう。

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