無双

□*やわらかな傷跡*(甘陸前提曹陸)
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初めて踏み込む魏城の門。



緊張に高鳴る鼓動を小さく深呼吸を繰り返し落ち着かせる。

しばらくしてから通されたのは大広間。

通された大広間の先の中央にどっしりと腰を下ろしている曹操と、その両側にずらりと並ぶ武将や兵士。
そして曹操の真横には縄で縛られ、自害できぬよう猿轡をされている甘寧の姿が。



(興覇殿…)


甘寧の身体に得に目立つ傷跡などは見受けられず、陸遜は小さく安堵の息を洩らす。

曹操の近くまで歩み寄り、地に膝を付け一礼すると、さっそく本題を持ちかけた。


「曹将軍‥。貴方の望み通りやって参りました。私と引き替えに甘寧殿を返して頂きたい」
「そう焦るな。茶でも一杯どうだ?」
「私は人質の甘寧殿を返していただく為に此処へ来たのです。今すぐ甘寧殿の縄を解き、呉へ送還をお願い致します」


陸遜の言葉に曹操は実に意地の悪そうな笑みを浮かべた。


「陸遜。やはりそなたは、まだまだ実戦なれをしていない若輩者だな」
「それはどういう意味ですか?」
「敵が出してきた条件を飲むのは、すべての内容を把握してから行動に移せ、感情だけで動いてはいかん。そういう事だ。いったい何時、誰がそなたが此処へ来ただけで甘寧を返すと言った?」
「…何が…お望みですか…?」

怪訝そうに眉を潜める陸遜に曹操はまたも小さく微笑み、ゆっくりと口を動かす。


「儂が望んでいるのは‥陸遜‥お前の身体だ」


曹操の口から飛び出した思いもよらぬ言葉に陸遜は己の耳を疑わずにはいられなかった。


「…今…何と…?」

「何度も同じ事を言わせるな。お前の身体が望みだと言ったんだ」


きっぱりと言い放つ曹操に陸遜は全身から嫌な汗が滲み出てくるのを感じた。
呆然と曹操を見つめる。


「…何を…おっしゃっているのです…。私は男ですよ‥?」
「人に興味を持ち、触れてみたいと思うこの感情に、男も女も関係ない。まぁ、こう思えるかどうかは人それぞれだとは思うが、少なくても儂はそのように思っている。おぬしも‥そうではないのか?」


甘寧をちらりと横目で見た後、すぐに陸遜へ視線を戻す。

いったい何処でそのような情報が漏れるのか‥。


「…そういった事は私には分かりません…」


否定する声が、肩が、微かに震える。
その震える肩先を見て、曹操は小さく笑みを浮かべた。

「口ではそのようにとぼけていても、声と肩が先程から震えているぞ?身体は正直なものだな」

くっくと喉の奥で笑う曹操に陸遜は困惑してしまう。
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