呪泉郷
□プロローグ(エース)
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産まれた時から父、ロジャーの船で育った。
悪名高く周りからの評価は最悪な親父も、息子の俺からしたら仲間にも家族にも愛情深い、本当に良い船長で父親だと思う。
少なくても俺はそう思ってた。
―――――今日までは。
ザッボーーーン!
「ぶあっ!何すんだよ親父!!」
名前も知らない大陸に上陸して、何故だか妙に神妙な面持ちな父親に着いて来いと言われた俺は今、何故だか小さな泉に突き落とされた。
悪魔の実を食って泳げない事を知ってる筈なのに何て事すんだこの親父は。
不敵に笑う親父を睨み付けながら、やっとの思いで泉から這い上がった俺は、ゼーゼーと切れる息を整える事も忘れ、親父の胸ぐらを掴みにかかった。
「殺す気か!なにしやがんだ、このクソ野郎っ!!」
そして自分が発した怒鳴り声に、ふと違和感を覚える。
声が、いつもより高い。
まるで女のようなその声に、俺は眉を寄せた。
「……あれ?なんか声が…」
喉を押さえて戸惑う俺に、目の前の親父がニヤリと笑う。
「エース。お前が今落ちたのは呪泉郷だ」
「じゅせんきょう?なんだそれ…」
「呪泉郷とは、ここ中国にある伝説の修行場だ。100以上の泉があり、1つ1つの泉には呪いがかかっている。泉に溺れると最初にその泉に溺れた者の姿となる。それ以降、水に濡れると変身し、湯をかぶると元に戻る体質となる。分かったか?」
…………………は?
なに言ってんだこの親父。
水を被るとなんだって?
ここが中国という大陸なのは分かった。
でもその後の言葉がまったく理解できねぇ。
「エース。自分の体を見てみろ」
「体…?」
その言葉に従い視線を落とした俺は、自分の体を見て目を見開いた。
「な、な、」
視線の先には、ぷっくりと膨らんだ女の象徴とも言えるそれ。
触れてみれば、感触は正に女のもので、俺は顔を更にしかめさせた。
「おい!どうなってんだよこれ!?」
「わっはは!お前を落とした泉には女の呪いがかかっていたんだ!」
「ぐあぁぁッ!ふざけんな!!何てことしてくれんだよ!!どーすんだコレ!?」
「エース。落ち着いて聞け」
「落ち着けるわけねえだろ!この鼻髭野郎!!テメェも落ちやがれッ!!」
「うおっ!!?」
全力で親父の腹を蹴り飛ばす。
100以上の泉がびっしり集まってるわけだから、当然親父も泉に落ちるわけで。
サボーーン!
という音と共に沈んでく親父に胸のムカつきが多少スッキリする。
「あー、スッキリした」
ニヤニヤ笑いながら親父の落ちた泉に近付き、中を覗き込んだ俺は、自分の軽はずみな行動を鬼のように後悔した。