呪泉郷

□プロローグ(エース)
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なぜなら泉から物凄い形相で這い上がって来たのは、親父ではなくパンダだったからだ。

………うん。
どこをどう見たってパンダだ。
パンダが息切らせて、めっちゃ睨んでやがる…。


「……お、親父…?」

「うがあぁぁあッ!!」


喋れないのか何なのか、雄叫びを上げて襲いかかってくるパンダ……親父を何とか宥めようとするが、一向に攻撃の手を止めてくれない。

どうすっかな…。
つか俺、船までの帰り道知らねぇや。

いやいやいや、
それは気合いで探せば多分何とかなる。
問題はそこじゃねぇ。
一番の問題は、俺が女で親父がパンダだって事だ。

船長がパンダというのは正直いかがなもんかと思う。というか絶対に船に乗せてもらえない自信がある。


う〜ん。
困ったな…。


攻撃に応戦しながら考え込んでいると、知ってる声が泉の先から聞こえてきた。


「お〜い!船長ー!エースー!!」

「サボっ!!」

「エースか!?って事は…船長!!?」


目を丸くして駆け寄って来たサボの右手には何故か熱湯が入っているであろうヤカンが握られていた。

もしかしたらサボはこの呪泉郷の事を知っていたのかもしれないけど、なんていう素敵なタイミングだ。
感極まった俺は勢い良くサボに抱き付いた。


「サボ〜〜!心の友よ〜!」

「うあっ//お前いま女なんだから抱き付くんじゃねぇよ!//」

「いーじゃねえかよ別に。あ、もしかして気持ち悪りぃ?」

「いや…ッ、気持ち悪いっていうか寧ろ……//」

「?」

「いや、何でもなっ―――ぶあっ!!」

「うわッ!」


突然物凄い力で背中を押され二人一緒に泉に落っこちる。

バシャバシャともがく俺を見下ろす、いつの間にやらお湯を被って元の姿に戻っている親父。


「おいエース。ここは子豚が死んだ泉だったみたいだな。早く出してやらないと死ぬぞ、それ」


それ!?
それって何だ!?
って、ああっ!!
サボが、
サボが子豚になってる!


力の入らない体に渇を入れて子豚……サボを抱き締めると羽織っていたシャツの中に詰め込む。
胸に埋まって苦しいのかバタバタとサボがシャツの中で暴れるけど、今はそれどころじゃない。

バタついてるサボをシカトして、気合いで泉の縁に手を掛けると、何とか泉から這い上がった。

そしてゼーゼーと息も整わない俺は、ひきつった笑顔の親父に容赦なくブン殴られた。


「いってぇな!クソ親父っ!」

「こんのバカ息子がっ!!船長の俺をパンダなんかにしおって!戦闘中に雨が降ってきたらどうすんだ!!」

「そんなん知るかっ!雨降ったら俺だって女じゃねぇか!」

「お前は人間だろ!俺なんかパンダだぞ!人間ですらないわッ!!」

「うるせぇ!先に落としてきたのはアンタだろ!?パンダならまだ戦えるから良いじゃねぇか!サボなんて豚だぞ!?豚……」


そういやサボは!?
慌てて胸の谷間に視線を向けると、そこには息苦しかったのか何なのか、真っ赤になって白目を向いてる豚……サボの姿が。


「うわあぁ!サボっ!サボっ!??」

意識のなくなったサボを抱き締めて焦る俺に、親父がポツリと呟いた。



「お前……それ逆効果だろ…」

と。


そんな親父の言葉は完全にスルーして、俺と親父は急いで船へと向かうのだった。














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