呪泉郷

□俺、男なんですけど(エース)
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「決めた。婚約の話はこのまま進めてもらう」



ニヤリと笑い、そう呟いた男に、俺は露骨に顔をしかめさせた。







「はぁ!?嫌だよ。俺はアンタなんかと結婚するのは御免だ」


向こうから断ってもらう為に、わざと仲間ブッ飛ばして悪態ついて、おまけに軽く喧嘩まで吹っ掛けたのに、婚約を進めるってこの男の趣味はどうなってるんだ。

確かに男が出した炎があまりに綺麗で、その下手くそな演技は途中で断念してしまったけれど。
それでも俺だったらこんな女は願い下げだ。
というより俺は男だ。

ボリボリと後頭部を掻きむしり、チラリと男に視線を向ける。


「あー…言わないつもりだったけどさ、」

「うん?」

「俺、男だよ」


俺の言葉に目の前の男は表情一つ変えずに、俺を上から下まで舐めるように見て呆れたような溜息を吐いた。


「つくならもっとマシな嘘つきやがれ。どっからどう見たって女じゃねェか」


ですよねー。


「本当だって。サボ、お湯かけてくれ!」

「はいよ!」

もしもの時の為にサボにこっそり用意しておいてもらったお湯が役にたった。
バリャリとかけられたお湯に、親父や仲間の焦り顔が見えたけど、そんなの知ったこっちゃない。

もくもくと上がる湯気と共に男の姿に戻った俺に、目の前の男が目を丸くしてるのが分かる。


「お前…」

「これで分かったろ?俺は男だ。だから婚約の話は…」

無しにしてくれ。
そう言おうと思ったら、男が下を向いて肩を震わせ始めた。
……なんだ?


「…ク、ククッ、ハハハハ!」


突然声を上げて笑い始めた男に今度は俺が目を丸くする。
男が声を出して笑うのが珍しいのか、白ヒゲの船員まで俺を見て見開いていた目を男に向けて目を丸くしてる。


「な、なに笑ってんだよ!」

「クククッ、随分面白い体質してるじゃねェか」

「そんなに可笑しいかよ…って可笑しいよな!俺だってそう思う!」

「……呪泉郷か?」

「へ?知ってんのか?」

「ああ、噂で聞いた事があるだけで、本当にあったなんて知らなかったけどな」

「そっか。俺も昨日知ったんだ。元はこの通り男だよ。だから…」

「気に入った」

「は?」

「だから、気に入ったって言ったんだ」


ええぇー…。
なに言ってんだ、この人。
目の前でニヤリと唇に弧を描く男の趣味がまったく分からない。


「……アンタな…」

「マルコだ」

「へ?」

「俺の名前だ」

「あ、ああ…」

「これから結婚するかもしれねェ男の名前だ。ちゃんと覚えておけよい」


そう言って楽し気に笑うマルコに、俺は深い溜息を吐いた。





 

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