自由への翼

□HONEY(鋼の錬金術師)
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  HONEY





「エドの髪好きだなぁ」

彼のしっかりと編まれた髪をほどいて、軽く手で梳きながらあたしはポツリと言った。
三つ編みをほどいた後でもクセのつかない彼の髪は、羨ましいほど綺麗だ。
サラサラと風に揺れる様は、絹糸を連想させる。


青い芝生の上で、二人黙って日光浴をしていたはずがいつの間にこんなことになっていたのだろう。
思い返せば、しっかりと原因はあたしにあった。
彼の髪に見惚れて、太陽に照らされた眩しい程の金髪にあたしは心を奪われたのだ。
それから無意識に手を伸ばしていた。



「でも女の子より綺麗だなんて、許せないわ」

強く髪を引っ張って、手櫛で高く持ち上げながらそう言うと、彼が「いてっ」と声を洩らした。
あたしはスカートのポケットから水色のハンカチを取り出して片手で広げると、それをリボン代わりにして彼の髪をきつく結んでやった。

「エドこっち向いて」
「あぁ?」
「ぷっ…」

笑っては失礼だ、そう思いながらもやはり堪えることはできない。
あたしは唇をぎゅっと噛んでみたが、それでも唇の端からくっくっくっと笑いが零れた。

「やだエドってば可愛すぎーっ!!」
「人の髪で遊ぶんじゃねぇーっ!!」

間髪入れずエドが怒鳴るが、ポニーテールにリボンという何とも可愛らしい姿ではちっとも怖くない。
くしゃくしゃになった髪を直してあげるはずが、遊び心が芽生えて、ついやってしまったのだ。


「だってエドの髪、あたしのより綺麗なんだもん。男のくせに…」
「あー?そうかぁ?オレはお前の髪好きだけど」

彼の表情がやんわりと和やかになって、あたしに微笑みかける。
指が、頬を掠めて髪に触れた。


「綺麗だと思う…?」
「ん。いい匂いするし、サラサラしてて綺麗だ」

目を細めてあたしの髪に口づけをおとす彼の優しさに、あたしのなかで強い風が吹いたようだった。
まるで蜂蜜のような甘さが心のなかでとめどなく溢れて、それでいて胸がぎゅっと締めつけられる。


「エド…」
「ん?」

しゅるりと彼の髪を結んでいたハンカチを外すと、鮮やかな金髪が舞った。


「あたしの髪結んで?」

彼は一瞬きょとんとして、目を瞬かせたけれど、すぐにあたしの手からハンカチを受け取ってにっこりと笑った。


「いいぜ!とびっきり可愛くしてやる!」


あたしの髪を優しく梳く指がくすぐったくて。
甘い時間はゆったりと過ぎてゆく。


心のなかで吹いていた風は、いつの間にか穏やかなものに変わっていた。



fin.
05,03,04 sakura.
40000Hit Thanks!!
 『櫻花恋歌』
 閉鎖されました(泣)




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