長編


□03.絶望の安心感
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「ほぉ…ぬけだしたんだとな…」

その後、体を鎖で縛られて地面にねじ伏せられて、
たった今、オーナーとやらがやって来たようで、

そいつは自分の体をその薄ら目でヒルの様に舐めまわした。
「おい嬢ちゃん、どうやって出てこれた?」

オーナーは蛙のような喉をぶるぶるさせて聞いた。
実際蛙みたいだから、幼い自分の目から見ても、こいつが穢れ汚れて見えた。

『いってどうなる?』

パンッ、だなんて明るいもんじゃない。ズパシッと平手を喰った。
大人の力と、子供の力とじゃ格が違う。違いすぎる。

頭が体からもげそうなくらい首が跳ね、名無しさんの白い頬に秒数よりも早く赤黒く染まった。
血が口からピッと少し吹き出た、じんじん、ぐわんぐわと頬が痛い。
チリチリと責めるやつじゃなく、叩かれた部分全面が火のように熱く頭まで響いた。

「もう一度聞くぞ嬢ちゃん。子供だからっておじさん優しくしないからねぇ?次ちゃんと望んだ答えしないと今度は熱した鉄がその柔らかい肌にあたっちゃうよ?」


『…の、ぞんだコタエなら、もういった』

声がふるふるとする、喉がヒューヒューと泣いている。私の答えとやらを聞くと、オーナーは喉を最初よりもぶるぶると震わせてため深ーい息をついた。

「残念だよ、そんなに体を温めたいんだね。」
傍のピエロが鉄の棒を火に当てて熱し始めた。
『ほんとうのこといったまでだ。おちた穴から辿ればいい。』
オーナーは眉を寄せた。恐怖で少し声が早口になる。
『それと、ショウヒンをきずつけたらカチがさがるわ!』
これは聞いた事なだけで、うる覚えでいったけど、
どうやらオーナーは目を閉じて考えたのち、ピエロに熱するのをやめさせたあと、外に下がらせた。ピエロがちぇっと惜しそうに下がるのを見ると少し心に安心が生えた。

「まぁ、嬢ちゃんの言うことも一理あるなぁ…はぁ、じゃあ〜…

『……。』
「あぁ、そこ。アリー!」
奥にいた衣装を脱いでいる新員の青年は困った様な顔であの…と口を開いた。
「俺はアルです…」
「どっちでもいいだろんなこたぁ、今日の客、どんなのが来てる?」
さっきよりはまだ少し高い声で聞いてきた。アルと言う青年は天井を見上げて指を折る。
「天竜人の家族が7組と、貴族が68名…あと海賊団が2組。海軍は居ませんでした。珍しく」
「貴族と海賊で良い噂のある所はいるか?」
「いいえ、何処も。それに皆人身売買について楽しく話してました。」
ちらと、アルは名無しさんを眼差しで君みたいなと言うような目で見て直ぐにオーナーに目を向けた。
「そうか、そうか、最後にもう一度聞くが…本当に海軍は居ないんだな?私服の奴でも。」
「いや、いません…。あと、海軍は今日、大会議があって、夕刻までこの島に来ません。」
オーナーはうんうんと頷くとぎょろりとした目でニンマリとわらった。

「丁度いい!次の商品を変更するぞ…。嬢ちゃんを早い所売りさばく。海軍が来る前にな。」
「あの…その子の服は…」
「そのままでいいだろ。商品にしては華やかだ。買取も早くなるだろうよ」
オーナーの言う通り、確かに名無しさんの服は、日本の公家の男児が着る半尻姿の装束を着ていて。しかし名無しさんの中性的な容姿からすれば、男装束も華やかな着物に見えた。
頭に糸で連なった曼珠沙華が名無しさんの幼い妖艶さを引き出していた。
着替える必要などない程の美しい幼女だったのだ。

「精々、いい飼い主に当たるといいなぁ!」
オーナーは唾を飛ばしながら、下品な高笑いをした。
名無しさんは汚物に汚物扱いをされた様な屈辱よりも、体を焼かれないよりはマシだと。心の中でほっと溜息をつく…

「期待しないほうがいいぜ嬢ちゃん。天竜人やらに買い取られたからって、体に焼印をされないとは限らねぇぜ?」
はずだった…
『……ぇっ?』

オーナーは、はぁっ!と一層高くひと笑いすると名無しさんの顔を覗き込んで。
恐ろしい一言を言い放った。
「ここはまだ天国だぜ。あっちではまさに生き地獄!嬢ちゃんの顔朴念仁なのも今だけだと思え!」

そのまま暫く笑っていたオーナーはアルに運んでこいと名無しさんを運び出させた。
途端に恐怖で肩が震えだした名無しさんを哀れむように青年は優しく肩に触れながら。
商品並び待合室に連れて行ったのだった。






絶望の安心感
(不安になってきた…場所に慣れた事にも…)
(子供なのに…ごめんね。)

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