お話玉手箱

□指折り待つ日
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このお話は【幕末編 秘密箱】の続編となっております。
よろしければそちらもお読みくださいませ♪

秘密箱




永倉さんが東下して半月が経った。


いつ戻られてもいいようにと、お天気のいい日は二日に一度換気のために訪れる永倉さんのお部屋から、徐々に失われていく彼の人の匂いに小さくため息が漏れた。


出掛けに永倉さんが引き起こした近藤さんの慢心を諌めるよう容保公に直接お渡しした非行五ケ条嘆願書事件で一時険悪になった新選組隊内も、容保公の英断と元来おおらかな永倉さんの気質のお陰で大事に至らず、むしろ事件のせいで謹慎中だった永倉さんを東下の同行に選んだ近藤さんの寛容さが際立って、以前よりも近藤局長のの為にと結束が高まったようにさえ感じられている。


近藤さんの江戸での隊士募集に付き添うため、他にも何人かの幹部が共に東下してしまい留守を預かる幹部の人数も半分に減っていた。
そんな忙しい中、毎日原田さんが気遣って声をかけてくれるのに何事もないように明るく笑って振る舞ってはいるものの、まるで灯火の消えたような屯所の気配に気付けばため息を漏れる。


いつの間にか自分の中でこんなにも大きくなっていた永倉さんの存在に、今はもう『兄様分』とは笑えないことに気付く。


あのお日様のような永倉さんを
私は女子としてお慕いしてしまったのだ


出立の朝、ポンといつものように私の頭を大きな掌で撫でて目線を合わせ「俺がいねぇ間は土方さんや左之を頼れよ。決して無理はするんじゃねぇぞ」と微笑んだ永倉さんにコクンと頷きながらも、心の奥底で不安と寂しさに葛藤した。


悪気もなく原田さんと「江戸に帰ったら吉原で羽を伸ばしてくるぜ」と嬉しそうに歓談するのを聞くと、ズキンと胸が痛くなった


わずかになった彼の残り香を求めそっと押入れを開ける。


「早く帰ってきてほしいな…」


天日干しの為に引っ張り出した布団を抱きしめて永倉さんを肌で感じながら、あと何日経てば会えるのかしら…なんて数えてみたり。


帰ってきたからと言って何が変わるわけでもない。
想いが伝わるわけでもないし、伝えるわけでもないのだけれど…


火の消えた静かな屯所に
賑やかで、熱く燃えるお天道様を求めるかのように小さく名を呼べばトクンと胸が鳴った。


「永倉さん……」





「今日、局長以下皆様は大津宿に入られ、明日には京に到着の予定ですよ」


先触れの隊士が局長一行の帰屯を告げる為副長室に向かう際、漏れ聞こえた声。


明日…


明日には会えるんだ!!


離れたからこそ気が付いた、大切な大切な人。


お天道様の笑顔が脳裏に浮かび、いつもより無意識に軽やかになる足取りを慌てて諌め、眩しさに目を細めながら天を仰ぐ。


雲一つない青空は、永倉さんの瞳のように青く高く澄み渡っていた。





20141117 春月梅

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