仮面ライダー鎧武 長編小説

□暗転〜繰り返される悲劇〜
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 ヘルヘイム消滅より5年後

 沢芽市も、元ユグドラシルの主任で、今は沢芽市の復興に力を入れている、呉島貴虎の尽力もあって、平和を取り戻していた。ビートライダーズのストリートダンスも復活している。観客たちも昔のように増えていた。
 何事もない日常は、ヘルヘイム浸食前までとはいかないが、それなりに戻っていた筈だった。
 そうこの時までは…
 
 突如、何の前触れもなく、姿を消していたあの男と女が戻ってきた。
 
 いち早く気付いたのは、ストリートダンスをしている若者の集まりである、ビートライダーズ、チーム鎧武のメンバーのラットだ。そうそれは、チーム鎧武の拠点である赤レンガのガレージに入ろうとしていた時だった。外階段を登っている途中ですぐに気づいた。
 最初は驚いて、目を疑ったがどう見ても本物だ。ラットの顔から自然と笑みがこぼれ、気付いたらそちらに足が向かっていた。

「紘汰さん、それに舞じゃないか」

 ラットはそんな二人に手を振りながら近づいていく。
 2人とも鎧武のダンス衣装に身をつつみ、黒髪に黒い瞳。そこにいたのは5年前に突如失踪をした葛葉紘汰と高司舞だ。姿をみれば、あの頃と全く変わっていない。
 紘汰と舞はもともと、チーム鎧武のメンバーである。とくに紘汰はチームのNO.2で、メンバーの信頼も厚かった。優しいその性格で、いつもメンバーの事を気にかけていて、なにより強くていつもメンバーを守っていた。
 舞は、いなくなったリーダー角居裕也の代わりに鎧武をずっと引っ張ってきた。紘汰とは幼馴染のため、いつも自分の事ではなく人のために動いている紘汰の事を心配していた。紘汰が訳ありでやめていたチーム鎧武に、用心棒として戻ってくるときに反対したほどである。頑固なところもあるが、しっかりとした性格で、鎧武のメンバーだけでなく、他のビートライダーズとも共同で引っ張ってきた。
 ラットにとって、二人は懐かしい存在でもあり、とても会いたかった人物だ。同じチームでありながら、何も挨拶ないまま消えていった二人に、ずっと後悔だけが残っていた。

 一瞬紘汰と、舞は誰のことか分からなかったようだ。キョトンとしている。
 だが、周りを見て自分たちしかいないため、ラットがいっている人物が自分たちの事だとわかると、ようやくその口を開いた。どこか困惑している様子だ。

「ごめん。それって俺のことか?・・・よくわからないんだ」

「私もわからないの」

 紘汰と舞は自分達の事を思い出そうとして、頭を抱え込んだ。思い出そうとする度に、苦しそうな表情となっている。
 そんな様子を見たラットはすぐに、二人を止めた。先程からの様子から整理したら、記憶喪失だと気付いたためだ。
 ラットは笑顔を浮かべて無理に思い出そうとしている二人を止める。

「無理に思い出そうとしなくてもいいよ。それより、みんなに会ってほしい。みんな、紘汰さんと舞の帰りを待ってたんだ」

 ラットはいつもの明るい感じでそういうと、困惑している紘汰と舞の手をとって、ガレージの中へ連れて行った。
 紘汰と舞は仕方なく、訳の分からないままにそんなラットの後について行く。

 ガレージの中に入ると、チーム鎧武の今やリーダ的な存在であるチャッキーやミカだけでなく、元は鎧武のライバルであったが、ビートライダーズの抗争が終わって以降、一緒に踊っている、チームバロンのリーダのザックやNo.2のペコまでいる。ちなみにザックはビートライダーズ全体をまとめていた。
 それよりもラットが驚いたのは、思いがけない人物がいたためだ。
 ラットは思わず目を丸くし、本来いるべきはずのない人物に目を向けた。

「か…戒斗」

 恐れながら、ラットはその名を口にする。
 ラットはその内容について詳しく知らないが、そこには紘汰との最後の戦いで命を落としたはずの戒斗が、いつものバロンの衣装を着て、そこにいた。
 ガレージのメンバーは、反対にラットが連れてきた、行方知れずの紘汰や舞の姿に驚いている。こちらも帰ってくるはずのない二人だからだ。一度にこんだけ、戻ってくると理解すらできなくなる。

「一体どうなってんだ」

 ザックが思わず頭を抱えた。そもそもザックは、なぜ戒斗と紘汰が戦わなくちゃいけなかったのか、どっちが勝ちどういう未来を選んだのかをほぼ理解していた。だからこそ、戒斗がこの場にいることも理解できない上に、戻ってこれるはずがない紘汰や舞が戻ってきていることを、ここにいるメンバーの中で最も理解できないでいる。

「戒斗は記憶があるのか?」

 紘汰や舞の件があったため、ラットはふと、そんなことを聞いてみた。とりあえず情報がないと何も判断ができない。ガレージのメンバーは落胆の顔を見せ、首を横に振っている。

「何も覚えていない。それがどうかしたか?」

 ふんと言いながら、戒斗がそう話していた。記憶をなくしても、正確が変わるわけではないようだ。相変わらずと言ったところだ。記憶喪失になっても恐れるどころか、気にもしていない。
 かわりに紘汰と舞は、どこかばつが悪そうにしている。記憶がないために、ここにいていいのかもわからない様子だ。

「実は、紘汰さんと舞も、記憶がないらしいんだ」

 ラットの言葉に、ガレージのみんなが驚愕する。本来帰ってくるはずのないメンバーが戻ってきたうえに、そろいも揃って、過去の記憶がない。正直誰も、今何が起こっているのか、わけがわからなかった。
 理解の範疇をこえている。

「とりあえず、ミッチに話してみるか。あいつなら、なにかわかるかもしれないしな」

 ザックの言葉にラットが頷いた。
 確かにこういう時に冷静に判断できるのは、ミッチしかいない。それにミッチの兄はあの貴虎さんだ。

「だね。最悪貴虎さんに聞けるしね」

 ラットはそう言うと、携帯を取り出して、すぐさまミッチこと呉島光実に連絡をとった。

 光実はちょうど、大学の講義も終わって、阪東がやっているフルーツパーラー、ドルーパーズにと向かっているところだった。
 ちなみにドルーパーズは、アーマードライダーやビートライダーズがよく利用している。おすすめメニューはフルーツパフェだ。

 光実は、電話の内容に驚いた様子だったが、すぐにガレージに向かうと言って、電話を切った。そんな光実の様子に安心していた矢先に、戒斗がさっとその場に立ち上がっている。皆はそんな戒斗にくぎ付けになった。

「自分の記憶ぐらい自分で取り戻す。貴様らとこれ以上慣れ合うつもりはない」

 戒斗はうんざりしたように言うと、そのまま外に出ようとしていたので、ザック、ペコの二人がかりで、戒斗を止めた。こういうところだけ変わらないのは遠慮したかった。

「記憶のない状態で、うろうろするのは危険ですよ。戒斗さん」

「ペコの言うとおりだぜ。戒斗」

 戒斗はふんというと、仕方なくそこにあった椅子にもう一度座り直している。ザックとしても、状況がわからないまま戒斗をウロウロさせたくなかった。それに、戒斗に対して恨みをもつ者もいる。だからこそ、できる限り戒斗の存在を広めたくない。戒斗を守るという意味でも、監視するという意味でも。

「紘汰さんたちも座ってください」

 ラットは、相変わらずばつの悪そうにしてその場に立っている2人に、席をすすめた。
 2人も渋々席に座ったのち、申し訳ないと思ってなのか、何かを思い出そうとして頭を抱えている。その度に、何か苦しそうな表情を浮かべていた。
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