仮面ライダー鎧武 長編小説

□光実の決意
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 あの美里市の事件より3ヶ月。
 大学の卒業式も終えて、ついに約束の日が来た。
 そう、紘汰と舞との約束の日…
 光実の顔には一点の曇りもない。

「本当に行くのか?私としては、いてもらってもいいんだが」

 やはりずっと育ててきた弟だ。
 少し寂しいのか、貴虎はそう言っていた。顔もどこか寂しさを感じている。

 確かに兄さんとは、わかりあえず戦ったこともあったが、それでも兄さんにかわりはない。今でもちゃんと尊敬もしている。
 それでも、僕はもう決めたんだ。

「兄さん、僕自身で出した答えなんです。…本来は兄さんの手助けをして沢芽市復興に力を入れるべきなんでしょうが、もう、僕のなかでは決まっているんです」

 光実の目は決心して、強くなっていた。
 顔つきも、気持ちの整理もついて随分と穏やかになっている。
 迷いのない顔に貴虎はもう何も言わないが、やはり寂しさを感じている。

「光実君までいなくなると、寂しいわね」

 晶は本当に寂しそうに話した。
 紘汰もいない今、弟を二人失うこととなる。
 紘汰の場合は、互いに別れを言えずだったが、今回はちゃんとお別れをしてだ。これはこれで寂しい。

「姉さん、大丈夫ですよ。…それに僕は紘汰さんと舞さんを守って、恩返ししたいんです。…多分、あの二人に必要ないなんて、言われるのは分かってますが…それでも、僕は力になりたいんです。…初めてひかれたレールではなく、僕自身の望む未来への道を歩ける。…僕は嬉しいんです」

 光実は、実際、色んな事が吹っ切れて、艶やかな笑顔を浮かべている。正直紘汰や舞と共に歩めることを少し喜んでもいる。

 ずっと仲間なのは変わりない。
 だから、あの二人の傍に僕はずっといたいんだ…

「気を付けてね。なんかあったら、戻ってきてね」

「光実、私はお前の兄だ。…そして、お前は私の自慢の弟だ」

「ありがとう。兄さん、姉さん」

 光実は、そんな二人に大きく手を振ったのち、ロックシードと戦極ドライバーをもち、外へと出た。
 他の荷物は必要ない。

 光実はそのまま、あの美里市事件が終わった際に、ニーナより告げられた場所へと向かう。

 鎮守の森の御神木だ。

 そこには、黒髪で沢芽市にいたころの姿をした紘汰と、黒髪で鎧武の衣装をきた舞がいた。
 二人は笑顔でミッチに手をふったあと、心配そうな顔になっている。

「ミッチ、いいのか本当に?俺達は別に焦ってないから、後でもいいんだからな」

 そうこれからは長い人生のはじまり。
 そんなに急ぐ必要はない。

 だからこそ、紘汰は光実にそう言っていた。

「紘汰の言う通り。こっち来たら、なかなか地球に戻ってこれないんだし」

 紘汰と舞は心配そうにそう言った。
 そこまで急がなくても大丈夫だからだ。
 彼らの優しさが、光実に染みる。

「いいんです。僕自身の望む未来への一歩なんです。後悔なんてしませんし、覚悟も決めてきました」

 そんな彼らだからこそ、僕は傍にいたいと思える。
 だって、元から彼らとはチームであり、仲間だから。
 その時、突如光実の後ろから声が聞こえてきた。

「光実、それにお前ら、酷いじゃないか。挨拶くらいしていけ。あと、そこの二人も、挨拶なしでまた行く気か」

 チームバロンの衣装に身を包んだ、ザックだ。
 光実だけでない、結局ろくな挨拶すらできてない、紘汰と舞にも言いたかった。
 紘汰と舞も苦笑している。

「しょうがない坊や達ね。…光実、アデュー。あと、みずがめ座の坊や、光実をよろしくね」

 シャルモンの店長にして、傭兵あがりの凰蓮が、相変わらずの調子で挨拶をした。

「沢芽市の策士は俺に任せろ。…なんかあったら、いつでも戻ってこいよ」

 城乃内も眼鏡をいらいつつ、そう話した。
 どこか照れを隠しているようだ。
 本当は彼らがいなくなるのが、寂しいという顔をしている。

「ミッチ人気だな。…皆、ミッチのことは任せろ」

「私達、ちゃんとやっていくから。心配しないでね」

 紘汰と舞がそう宣言すると、光実は不服そうであった。
 これじゃあ、立場が逆だ。

「なんか、紘汰さんを守りにいくつもりなんですけど、これじゃ立場逆ですね…。皆、今まで、ありがとう。色々と迷惑をかけたけど、僕は前を進んでいく。紘汰さんじゃないけど、もう、僕はあきらめたりしない」

 紘汰は、笑って御神木にクラックを開いた。
 あまり長居出来ないためだ。

「じゃあ、皆元気でな。こっちの事は皆や貴虎に任せる」

「皆、ありがとう。…ミッチ、先に行ってるね」

 紘汰と舞は一緒にクラックに飛び込んだ。

「待ってください。…えっと、ありがとうございます。それではいってきます」

 光実もクラックへと飛び込んだ。
 その瞬間、クラックが閉じていった。

「寂しくなるわね」

 凰蓮は本当に寂しそうに呟いた。

「そうですね凰蓮さん。…でも、あいつららしい」

 城乃内もどこか寂しそうだ。

「これからは俺達で沢芽市を守ろう」

 残されたもの達は、そう誓った。 
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