仮面ライダー鎧武 長編小説

□暗転からの光
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 ダンスステージでは、インベスゲームが各所で行われていた。集まっているのは若者ばかりだ。

 そこに黒フードを被って顔を隠した、Zこと葛葉紘汰がやってきた。
 さっと周りにいる若者に冷たい目を向けている。

「インベスゲームより、これから始まる面白いショーを見ないか?見物人は俺…演じるのはお前達だ」

 声色が低く、その言葉からは冷たさを感じられた。そして、持っていたランクSのロックシードで、スネイクという蛇のような男と、レオンというライオンのような化け物を呼び出す。

「お前達の持っているインベス達の上位種だ。さあ、どう立ち向かう?」

 その言葉が合図となる。スネイクと、レオンはそのまま暴れ始めていた。
 スネイクがその呪術でヘルヘイムの植物を操り、レオンはその鋭い爪と怪力で、インベス達を飛ばしていった。
 その様子を見て、インベスゲームをしていた者たちが、ロックシードを放り出してとにかく逃げ始めた。
 そのため、コントロールを離れた、インベス達が、人間達に向かって暴れだす。
 その様子に紘汰はため息をついていたが、さっとインベスに目を向ける。

「想定外だが、仕方ない」

 紘汰は右目だけ前髪をあげると、右目が赤く光った。
 その瞬間、コントロールのないインベス達は動きをとめる。さらにはインベス達がまるで紘汰を主とするように、その周りに集まり始めた。 

「あいつ、人じゃない」

「インベスを操るなんて…」

「怖いよ…母さん」

 インベスゲームをしてたものや、見物客が逃げ惑う。その強大な力に人々はなすすべがない。それを助長するかのごとく、紘汰はその様子を見ながら、笑い出した。
 その悪役に似た笑い声が周りに響いている。

「ヘルヘイムの産物を甘くみた罰だ。…インベスがそう簡単に操れると思っていたのか、人間どもめ。…俺は…ヘルヘイムの王だ」

 そう言うと、紘汰の周り一帯に、ヘルヘイムの植物を生やした。
 一瞬の出来事に人々は何が起こっているのか理解できいない。とにかく計り知れない力。だからこそ、逃げることに専念していた。
 
「貴様、血迷ったかZ」

 戒斗が紘汰の前にやってきた。
 紘汰はただ冷たく、戒斗を見つめている。一言も返さずに。
 その様子を見ようと、遠巻きに観客達があらわれた。
 それぞれに動画もかなりアップされている。

「貴様、そこまで性根が腐ったか」

 戒斗はそのまま、信じられない目で紘汰を見つめている。だが紘汰はそのまま冷たい目で見めたのちいつもの感じとは違う冷たい言葉を吐く。

「X…お前がいつも言っていることじゃないか。弱いやつが悪いんだ。最後に信じれるのは自分自身の強さ…だろ。俺はそれを示しただけじゃないか」

 紘汰は悪人のように笑いながら、高らかに言った。もはやそこには紘汰の面影もない。

「なら、証明してみせろ。…貴様自身の強さをな」

 戒斗は、アーマードライダー黒影に変身し、影松で襲ってくる。
 が、紘汰に届かず、スネイクがそれを防いでいた。紘汰自身は微動だにしていない。

「王をお守りするのが、我らの役目。お前ごときに、指一本触れさせない」

 スネイクは、杖で応戦しながら、戒斗にそう言いはなった。
 その目に一切の迷いがない。

「間違ったことを正そうと思わないのか?何があったのか知らんが、俺を倒してまで救った世界。それを襲うなど、馬鹿げている」

「それはどうでしょう?いかに優しい王とはいえ、これまで人間に、やられた行いを、もはや我慢ならなくなった、ということです。我らはあくまで、王の考えこそ正義だと考えておりますので」

 スネイクの中では、王という存在は絶対的な存在…最も、その王当人は、そんな事を望んでいないが。
 スネイクはそういうと、戒斗にむかって、ヘルヘイムの植物で攻撃する。戒斗は、影松で斬り倒し、ヘルヘイムの植物から逃れている。
 まさに白熱した戦いだ。

 まるで自分には関係ないのだろう。遠巻きの観客からは、Xコールが巻き起こっている。

「スネイク、手加減してたらやられるぞ。そいつなら本気を出しても大丈夫だ」

 紘汰はそう言ったのち、今度はさっと右手を掲げるとクラックを開いた。
 スネイクと同じような色をした、男達が次々とこの世界に現れている。
 皆、その手に杖を持っている。

「外野が騒がしいので、黙らしてくれないか。よろしく頼む」

 Xコールが巻き起こる観客たちに、その蛇のような怪物たちは、ヘルヘイムの植物を使って黙らしている。
 紘汰は、それをまるで高みの見物のように、操ったインベスを自分の周りにおいて守らせ、そのまま階段に座りこむ。
 
 用がないレオンは、紘汰を守るように、腕組みしながらその隣に立っていた。

「X以外にいないのか?俺をとめようとする連中は…なんなら、インベスを呼び出して攻撃させたり、アーマードライダーになって戦いを挑んでもいいんだぜ」

 その言葉に触発されたのか、ロックシードを持っているもの達が、次々にインベスを呼び出している。
 大量のインベスが紘汰にむかってきた。

「レオン、全て倒してくれ。…無理ならイーグルも呼ぶが」

 その言葉にレオンは一瞬微笑んでいた。この男のこぶしが震えているのを見て。
 いつもこういう男だ。本当は動きたいのにかなり抑えている。
 ならば、せめてその気持ちを自分たちが叶える。

「いや、一人で大丈夫ですな。この程度なら」

 レオンの咆哮をあげる。その衝撃でインベスが動けなくなっていた。あとは、動けなくなっているインベス達をレオンの爪により、次々と倒されていく。

 相変わらず、強いなレオンは。
 いつも助かっているよ、レオン。
 紘汰はそんな事を考えつつも、顔は冷酷な表情を浮かべたままだった。

 スネイクとXの激しい戦いも続き、もはや観客達は神に祈っていた。
 Xに勝ってほしいと。

 だが戦況は一変する。
 黒影トルーパー隊が、ダンテライナーに乗って、紘汰目掛けて銃弾を撃ってきた。
 紘汰は銃撃をあび、白煙に包まれた。
 その影響で、全くどうなっているのか見えない。

「またお前らか。…よくも王を」
 
 スネイクとレオンが紘汰を守りに行こうとするが、スネイクは戒斗に、レオンはインベスが邪魔でなかなかいけない。

「くそ、邪魔だ。そこをどけ」

 レオンは、インベスを必死に払いのけた。
 紘汰は、ヘルヘイムの民にとって冗談でも、失ってはいけない存在だ。
 それがヘルヘイムの民の共通認識だ。

「危ねえな」

 白煙が引くと、紘汰は無傷のまま何事も無かったようにそこにいた。
 それを見届けたレオン、スネイクは安堵し、戒斗とインベス退治に集中する。紘汰が無事ならあとは自分でなんとかすることをわかっているからだ。

「まあ、丁度暇をもて余していたところだ。差し詰め、戦極凌馬の差し金か…お前達に対しては、本当に頭に来てるんだ。俺達の世界へやった行いを許さない。…覚悟しろ」

 紘汰の右目が怒りで激しく赤く光っていた。
 そしてそのまま、あの赤い鳥、イーグルを呼び出す。

「上のあいつらを落とせ。…あいつらのせいで、俺達の世界が無茶苦茶になった。もう、あんな思い二度とごめんだ」

「わかった。王の思い…私が」

 イーグルはそういうと、人型のまま飛び上がり、銃弾をよけながら次々に黒影を落としていく。
 紘汰はヘルヘイムの植物を操り、落ちてきた者を宙吊りにしていく。
 手も足もでない、黒影達はあるものは命乞いをし、あるものはもがいて逃げ出そうとしていた。

「お前達にわかるか?必死に平和だったあの世界を守るため、女性も子供も戦っていた。それを次々に銃弾で傷つけ、はては子供を連れ去られ、泣き叫ぶ子供や民の声、怒号……俺はあのときのこと、今でも思い浮かぶ。あんなこと、流石に許せるか」

 紘汰の目から自然と涙が溢れ出ていた。
 紘汰がヘルヘイムの森に入ったときには、まさにその地獄絵図といえる光景であった。
 少し前まで、みんな平和に生活していたのに、黒影トルーパー隊の襲撃で一変していた。
 あの時の後悔を、紘汰はずっと忘れられないでいる。
 だからこそ今も怒りでどうにかなりそうだった。

『やめて。気持ちはわかるけど、落ち着いて紘汰』

 舞はすぐに止めた。
 嫌な予感がしていた。
 紘汰が人を殺すはずがない。
 それはわかっているが、あのときの光景は舞でさえ、怒りにうち震えていたほどだ。恨んではいけないが、人を恨もうとさえ思った。

 紘汰だってそうだ。
 今とめないと。
 
 心の中に響いてくる舞の声に、紘汰は深呼吸をして落ち着いた。
 赤く激しく光った目も落ち着きを取り戻している。
 紘汰はそっと目を閉じると心の中で、そっとつぶやいた。

『舞すまない。もうちょっとで、暴走しそうになっていた。…ありがとう。止めてくれて』

 落ち着いた紘汰は、目を開くと宙吊りの黒影トルーパー達を下ろす。ただ身動きをとれないように、ヘルヘイムの蔦は絡めたままにしていた。

「イーグル、ロックシードとドライバーを破壊しろ。もう二度と変身できないように」

 イーグルは言われた通り破壊する。
 変身を解かれたものは、紘汰がその蔦を外した。外されたものたちは、すぐさま逃げていっている。
 その様子は、なんだか悲しい気持ちにさせる。

 紘汰は頭を抱えるようにして、階段に座りなおした。

『ところで舞、ミッチに、いつまでやるんだ?この茶番と聞いておいてくれ』

『もうちょい頑張ってください。だって・・・皆が演技上手いって誉めてるよ』

『上手いって…あのさ、俺元々こう言うの苦手というか嫌いだ。人を傷つけないように手加減するのも大変だぞ。…それに事情知らない戒斗の乱入もあるし。あれには正直困ってる』

 心の中でそんなことを話しながら、絋汰は戒斗を見つめる。戒斗は、まだスネイクと戦っていた。
 それもスネイクがなんとか押さえてくれているという感じだ。あまり余裕がないのが見て取れる。

『説明するのも無理だし、とにかくもうちょっと、頑張って。私達応援してるから』

『何をだよ…もう頼まれても、二度とこんなことしないからな』
 
 そう心の中でいいながら、紘汰は、深いため息をついた。
 こんなこと、引き受けなきゃよかったと、かなり後悔している。

   
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