仮面ライダー鎧武短・中編&その他集
□二人の紘汰
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二人の紘汰〜紘汰編〜
「葛葉?」
たまたま仕事の関係上通りがかった道で、葛葉紘汰の姿を見た、呉島貴虎は運転していた車を止めた。
呉島貴虎の今の仕事は、復興事業の責任者だ。
それが、かつて自分がやったことややろうとしたことへの、罪滅ぼしと考えている。
葛葉紘汰は、貴虎にとって、色んな意味での恩人である。
ただ紘汰は、オーバーロードという、人ではないインベス(怪物)と言われても仕方ない存在になっている上に、神ともいえる力を手に入れて、もはや沢芽市どころかこの世界から旅立っていった存在だ。
そのため、沢芽市にいること自体、沢芽市になにかあったか、紘汰自身になにかあったかのどちらかしか、考えられない。
「葛葉、なぜここにいる?」
町の中をキラキラとした目で歩いている、紘汰にそう声をかけた。
雰囲気もどこか、以前の紘汰とは違っている。
ただ来ている服などは、以前見かけたものである。
「貴虎さんですよね?…すいません。記憶がその、名前とかはわかるんですが…」
どうやら、本当のようだ。
紘汰はかなり、困惑している。
何より、しゃべり方まで変化していた。
性格もどこか違っているようだ。
「とりあえず、私の家まで送ろう。お前の姉がいるからな」
そう言うと、貴虎は自分の妻にして、紘汰の実の姉、晶に電話をして事情を説明した。
晶は驚いていたが、弟の紘汰の身をいつも案じていたので、紘汰が戻ってきたことに少し嬉しくなったようだ。
「さあ、乗れ。遠慮はいらん。…一応お前の義理の兄だ」
「わかりました」
紘汰を乗せると、貴虎は呉島家まで送っていく。
車中では色々と雑談をしているうちに、呉島家までたどり着いた。
呉島家の玄関では、晶が待っていた。
よっぴど紘汰に会いたかったのだろう。
「すまないが、仕事の途中だ。話は帰ってきてからにしよう。晶あとは任せる」
貴虎はそのまま車に乗っていった。
晶は笑顔で中にいれ、紘汰を椅子に座らせた。そして、晶は奥にいくと、何やら持ってきた。
「食べれるかどうかわからないけど、シャルモンのケーキよ」
そう言うと、晶がよく買っている洋菓子店シャルモンのケーキと、紅茶を出した。
「美味しそうですね…いただきます」
そう言って、シャルモンのケーキを幸せそうな顔をして食べている。
その様子に、晶は嬉しくなったと同時に、何かがあったんだろうけど、人に戻ったんだと安堵していた。
「記憶無理に戻さなくていいからね。ゆっくりで。それまでこの家使ったらいいから。貴虎さんも、そのつもりだから、何にも心配いらない」
正直いけないことだとは、分かっているけれど、紘汰が記憶を無くしてでも戻ってきたことに、嬉しさを覚えた。こないだ帰ってきたときも、あっという間だったし、なかなか会いにさえこない弟。
だからこそ、昔のように一緒に暮らしたいなどと、心のどこかにあった。
そもそも紘汰と晶は、両親をなくして以来、晶が紘汰の母親がわりとして面倒を見てきた。
だからこそ、弟に対する気持ちが強いのかもしれない。
その時、突如玄関のチャイムがなる。カメラで来客を見たとき、晶は急いでドアを開けた。
やはり、紘汰に何かあったんだと確信にかわる。
「よかった。紘汰さん、ここにいたんですか。・・・舞さん、いましたよ紘汰さん」
そう言っていきなり、紘汰に抱きついたのは、呉島貴虎の弟で今では紘汰の義理の弟となった、呉島光実である。
元々沢芽市にいたが、ある事件をきっかけにオーバーロードとなって、今は紘汰と舞のいる別世界で暮らしている。
「よかった。…もう心配したんだからね」
そう言って泣き出しそうになりながら、紘汰の肩をポンポンと叩いたのは、紘汰とともに神に近い力を手に入れて、オーバーロードとなり別世界へと旅立った、高司舞である。
普通の状態でいなくなった訳じゃないので、舞と光実はとても心配していた。
正直すぐに見つかるかもわからないので、かなり不安であった。
「光実さんと、舞さんですよね。…その…」
紘汰が申し訳なさそうにしている。
光実はすぐに気がついた。
「やっぱり、果実が強制的に分離した影響のようですね。記憶がないみたいですね」
やはり、この二人は事情を知っている。
晶は二人を見つめた。
「あの・・・説明してくれる、光実君に舞ちゃん。状況が全く理解できてないから」
晶は二人に紘汰の前にある、椅子をすすめて、自分も紘汰の隣に座った。
光実と舞は困ったが、相手が晶では説明しないわけにもいけない。
絋汰の事を一番心配する人だ。
「僕から説明します。詳しく話すと大変なので、ある事件で、紘汰さんが力を使いすぎてしまって、その影響で意識を失い、紘汰さんの生命に危険が及ぶところだったんです。それを感じた大元である、果実自体が強制的に紘汰さんと分離した・・・その影響で絋汰さんは僕たちの目の前から、意識を失ったまま消えてしまった。ドライバーとロックシードも僕たちが持ってます」
そういって、紘汰の鎧武のベルトとロックシードを晶に見せた。
「また皆を守ろうとして、無茶をしたのね・・・紘汰らしいけど、まったくね」
詳しくはわからないが、紘汰の性格をよく知っている晶は、納得した。
自分のことより、先に皆のことを考える。例え自分の身がどうなっても、皆のことを守れればいい。
人間でなくなったとしても、紘汰はずっと変わっていない。
「あの…なんなんですか?果実とか力とか…」
記憶のない紘汰には全く理解出来なかった。
ヘルヘイムの侵食や世界の危機など、経験したものでないとわからない。
「紘汰、今は人に戻れてるみたいだし、どこまで話したらいいのか…」
舞は正直戸惑った。
今の紘汰は人に戻っている。
シャルモンのケーキを食べている事が何よりの証拠だ。
今の舞にとって、昔あんだけ好きだったシャルモンのケーキも、なんの魅力も感じなくなっている。
オーバーロード化の影響で、この世界の食事を食べられなくなった影響。
本来、紘汰もそうだったのだが、食欲が戻っている以上、そういうことだろう。
「紘汰さん、多分説明しても記憶がない限り、わからない内容です。なので、さっきの話は気にしないでください」
「ミッチのいう通りだね。…晶さん、しばらく紘汰をここで、お願いしていいですか?」
舞にそう言われた晶は、ニッコリと微笑んで答えた。
「当たり前じゃない。紘汰は私の弟なんだから。絋汰のことは任せて」
確かに晶に任せることが一番だ。
「あと舞さん、僕も残ります。変な輩がチャンスだと紘汰さん襲ってきたらまずいですし」
紘汰は今力を失ってはいるが、もともとは果実に選ばれし者。
果実の力は紘汰と舞しか使用できない。
紘汰のことを器としてみなす輩もいるくらいだ。
「確かにね。ミッチ、晶さん、お願いします。…紘汰、また記憶が戻ったら迎えにくるね。あの場所は、ちゃんと守っているから、心配しないで」
舞はニッコリ笑うと、玄関から出ていく。
その際、黒い影が舞より紘汰の影へと移動した。