仮面ライダー鎧武短・中編&その他集
□偶然
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葛葉紘汰は、沢芽市郊外にある葛葉家のお墓の前で、花を手向けた後に、手を合わせていた。高台にあるその墓地には、優しい風が吹いている。
紘汰の目にも自然と涙が零れ落ちていた。
ここに来るのも本当に久しぶりだ。
前はよく来ていたのに、もう今じゃなかなか来れなくなっている。
紘汰の両親は、幼くしてなくなっていた。
ずっとたった一人の姉、晶に、母親がわりに育ててもらっていた。
ただ、今はその姉の前にすら自分はいなくなっている。これが望んだ結末だから後悔はない。
姉ちゃんだってきっとわかってくれているはずだ。
紘汰はそっとその流れ落ちた涙を手の甲で拭うと、さっと笑みを浮かべた。
「さてと、長居もだめだから、帰るな。…また来るよ」
そう言って、その場を去ろうとしたとき、目の前から、少年が走ってきて紘汰の後ろに隠れた。
一瞬紘汰はなんのことかわからず戸惑っていたが、前から、黒い覆面の上に白い仮面をつけた、全身黒い集団がやってくるのを見て、ただ事ではないと感じた。
紘汰はそっとその少年を守るようにすると、その訳の分からない男たちに目を睨みつけながら、少年に尋ねた。
「こいつら一体、何者だ?」
「わからない。いきなり追いかけてきたんだ。お兄さん、お願い。助けて」
まあ、こんな怪しい集団と少年だったら、どっちを守るべきかすぐにでもわかる。そもそも紘汰は昔からこういう事をほっておけない。
まあ、本当は長居をしてはだめだが、今はそんな場合じゃない。
紘汰はため息をついてさっと、怪しい男たちを睨みながら言った。
「仕方ないな。じゃあ付き合うか」
紘汰は少年を抱えると、この墓地に続く道にへと続く斜面を滑り降りていく。
その不意な行動に、変な集団は動揺していたが、すぐさま紘汰達を追いかけてくる。
もともと足は速いほうだがさすがに、少年を抱えて走るとどうしても、限界がある。
斜面下にある坂道を走り下りながら、紘汰は叫んだ。
「あーもう、ダークすまないが、時間稼ぎ頼む」
斜面とは反対側の雑木林から、黒い髪の女性が、謎の覆面集団の前に現れる。
黒い服をきていて、まるで忍びのような身のこなしで、蹴りをいれたりして、翻弄している。
闇の部族ダーク、紘汰の護衛と称していつもついてくる女だ。
「日本の忍者?」
忍者か…
まあ、近いけど説明するわけにはいかないし。とりあえず誤魔化しとくべきかな。
そもそも人じゃないからなあ…
「みたいなものだ。…さあ急ごう。どこまでいけば、いいんだ?」
少年は坂の下の車を指差した。
まあ、あそこまでなら何とかいけそうだ。ダークが時間を稼いでくれているし、なんとかなりそうだ。
紘汰は少年を抱えたまま、かけ下りる。
車からスーツ姿の男が出てきて、その緊迫した様子にはっとなる。
紘汰はすぐに事情を説明し、男に少年を預けようとしたが、少年が紘汰の腕を捕まえたまま放さない。
怯えているようで、持っている手が震えている。
だからこそ、紘汰も無理に引きはがせないでいた。
「怖かった。お兄さん、助けて」
涙目でじっと見られると、正直困っていた。
紘汰はこういうのに弱い。困っている者をほっておけない性分だからこそ、離れるわけにもいかないし、かといってこの世界に長居もよくない。
心の中で葛藤していた。それを見越してかスーツ姿の男は紘汰に提案してきた。
「無事お屋敷につくまで、よろしいですか?そのあとお送りしますので」
そういうことなら、いいか。
紘汰は仕方なく、少年と共にその高級そうな車に乗り込んだ。
内心、あとであいつらに色々言われるだろうなと、思いながら。