仮面ライダー鎧武短・中編&その他集

□ある雨の日に…
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 その日、雨がずっと降っていた。
 軒先で雨宿りをしながら、色んな事を考えている。
 そう…色んなことを…
 雨はやはり…

「お待たせしました。行きましょう」

 40代くらいの黒いスーツの男が、さっと黒い傘を差し出す。
 同じく黒いスーツを着た20代くらいの男は、それを受けとると、空を見上げた。
 雨はやみそうにない。
 かなりの間降り続いている。
 
「まるで、何か起こる前触れのようだな…さあ、いくか」

 二人はアスファルトを歩いていく。
 ズボンの裾が雨に濡れている。
 革靴もびしゃびしゃになっていた。
 厄日なのかもしれない。
 まあよく、巻き込まれるな…俺
 自分から首を突っ込むこともあったが、今は巻き込まれる方が多い。

「嫌なことは言わないでください。全く」
 
 ただでさえ、ここに連れてこられただけでも、ついていないのだ。
 この人にこんなことを言われると、なんだか怖い。
 そもそも…
 いや、まあいい。
 仕方のないことだ。
 そうため息をつく40代の男を見て、若い男はふっと笑った。

「そんな気がしただけだ。…しかし、お前と二人で、こうやって、ゆっくり話すのは、久しぶりだよな」

 そう、大抵こんなにゆっくり話が出来ない。
 そもそも、話すことは国のことだけ…
 昔はなんだかんだで、色々話をしたりもあったが、最近は人が増えたためか、こうやって話す機会もなかった。
 互いに認めあう間柄でありながら…

「そうですな…その昔、悪態ついていた頃が、懐かしいです。あの頃は色々話せてましたし」

 悪態という言葉に、20代の男は笑っている。
 そういえば、そんな頃もあったな…
 今では敬語が定番となってしまっている。
 まあ、衝突もよくあったしな。
 今では、大抵のことは許してくれてる。
 慣れたというのが、本当かもしれない。
 まあ、だからこそ自由にさせてくれる。

「そうだな。懐かしいな…なんせ信頼すらしてくれてなかったしな…」

 そう、あの頃が懐かしい。
 あれからどれくらいたったのかも、忘れた。
 今まで色々とあった。
 一言で言い表せないほど…

「そうですな、今では貴方以外の右腕になるつもりは、ありません。…しかし、雨とは実に厄介なものですね」

 あまり、雨を体験していない。
 この男達の世界で雨が降ることは、そうそうないからだ。
 若い男も、久しぶりの雨だ。
 昔は雨に濡れていくなど、よくあった。
 雨が降ることに、嫌だな…くらいの感情しか、昔はわかなかった。
 だが今は、色んなことを考えてしまう…
 もはや、あのころには戻れない。

「まあな…でも、雨があるから生命は循環するんだろうな。特にこの世界では」

 この世界では、雨がなければ作物も育たない。
 動物も生きていけない。
 勿論、人も…
 死活問題なのだ。
 この美しい青い星では…
 それはよくわかっている。

「なるほど、我らの世界とは別ですからな…」

 そう、ここは全く別の世界。
 若い男はよく知っている世界ではあるが…

「そうだな」

 自分たちの世界に帰りたい…
 だが…
 本当に困った…
 なんでこんなことに?
 理解すらできていない。

 その時、誰かが走ってくる音が聞こえる。
 この雨の中をだ。
 音は背後からだ・・・
 若い男が振り返る。
 40代くらいの男は驚愕した。
 
 ナイフが腹に突き刺さり、そのまま若い男は倒れた。
 気を失ったようだ…。

 地面が赤く染まっていく。
 かなりの量の血が流れている…
 
 ナイフを刺したものは、そのまま走り姿を消した。
 黒い覆面をしていて、顔は全く見えなかった。
 黒い影がすぐさま追う。

「しっかりなさってください」

 40代の男は焦った。
 普段ならなんとかなるが、ここではまずい。
 それにこの形態だと…
 実際、若い男は目を開けない。

 とりあえず、どこかで応急措置をしないといけない。
 40代の男は若い男を、抱えようとする。
 その時、赤い傘を差した、白いワンピースを着た、小さな女の子がじっとこっちを見つめていた。
 さっきまでいなかった…
 何者なんだ?
 その瞬間姿を消す。
 なんなんだ一体?

「止まって、早く病院に連れていかないと」

 その声に後を振り返ると、灰色のスーツをきた男が車から降りてくる。
 まずい…
 この方の秘密がばれる…

「いえ、大丈夫ですから。それでは」

 そのまま連れて行こうとするが、やはり止められる…
 力さえ使えれば…

「何言ってんだ…こんなに血出てんだぞ」

 仕方ない…確か、聞いた話だと…

「すいません。そのお恥ずかしいのですが、お金がありません。保険にも入ってませんので…では失礼を」

 本当のことだ…
 全く厄介だ…

「金くらい出す…そんなに病院いけない理由でもあるのか?」

 理由はあるのだが…なんなんだこいつは…
 今倒れている、この方なみにおせっかいだな…

「この方は普通の方より傷の治りが早いのです。もし、それがわかれば研究材料にされてしまいます。…申し訳ございませんが、われらの事はお忘れください」

 とはいっても、早く手当はしなければ
 傷の治りを早める呪術なら使えるはずだ。
 よく思うが、この方は巻き込まれすぎだ・・・

「そうか…なら、うちに来い。一人暮らしだから大丈夫だ。お前らのことも黙っておくから」

 もはや断るわけにもいかないのか…
 仕方ない…

「ではお言葉に甘えましょう。私の名は蛇とでもお呼びください」

 その名に、男は首をひねる。

「名まで隠すのか?…一応、俺は菊池啓太。さあ、よかったら乗れ」

 蛇は頭を下げると、大切そうに若い男を椅子にのせる。
 傘をたたみ、男が動かないように支えるため、乗り込んで押さえた。

「じゃあ、いこう」

 本当に厄日だ…
 あまり関係をもってはいけないのだが…
 そんなことを言っても無駄だよな
 この雨が恨めしかった…

 
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